「ごめんね……、みんなを期待させちゃって……」
「そんなに気を落とさないでください。誘ったのは私ですよ?」
結果はどうであれ、本来は誰の責任も問われるものではない。
それでも、しょげ返って謝っている茜音の気持ちが分かっているだけに、萌もすまなそうにしていた。
「はいはい、また探せばいいさぁ。茜音ぇ、ちゃんと写真撮って帰るんだぞぉ」
菜都実の大きな声で、その場の雰囲気が少し和らいだ。
「ほぇ?」
「だって、ここ似てるんだろぉ? 同じようなところを探せって公開できるじゃんか」
そうだ。これまではイメージを言葉やイラストで伝えることしかできなかった。菜都実の言うとおり、実写で同じような場所といえば、発信力に大きな差がでる。
「なるほどぉ……」
「たまには菜都実もいい事言うじゃん」
「たまにかい~!」
みんなが吹き出したところで、少し遅めの昼食となった。
「あまり大した物作れなかったんですけど……」
おにぎり、鶏の唐揚げ、厚焼き玉子とお弁当定番メニューだが、景色のいい屋外で食べるのだから、何でも美味しく感じられる。
「萌にしては定番だねぇ……。いつもはもっと気合い入れるのに……」
「だって、昨日お買い物してないもん。冷蔵庫の中の物で急いで作ったから……」
朝一番に、台所から萌の叫びが聞こえた気がしたが、今日のお弁当の材料をすっかり忘れていたせいだと言う……。
「萌ちゃん、それでもすごいよぉ。美味しいもん」
「これで間に合わせかぁ……。菜都実ぃ、うちら中学生に負けてるよ?」
「来ると思った。どーせあたしはそんな役ですって……」
「だって、あんたの調理実習で、男子が喜んで食べたのあった? しかも喫茶店の娘よあんたは?」
「いいじゃん、店のはちゃんとみっちり教わったもん。お父さんに何度も怒られたけどさぁ……。茜音がバイトに来たんで、お父さんが喜んだ喜んだ……」
三人の中では茜音と佳織は互角と言われている。難攻不落の茜音はバレンタインには本来縁がないのだが、菜都実に頼み込まれて何度か手作りのチョコを作ったこともあるし、調理実習では誰でも喜んで受け取ってくれる。
「萌が料理当番の日って、うちの献立が変わるもんねぇ……」
三人の会話に美保も入ってきた。
「やっぱし……。いいように使われてるんじゃないの萌ちゃん?」
「いいんです。これも勉強だし……。そのかわり失敗しても文句は言わせません」
「なるほどぉ」
「でもさぁ、茜音も萌ちゃんも、彼氏は幸せだよねぇ……。あたしじゃ食わせたら最後だわ」
突然顔を曇らせてしまった萌。美保も「しまった」という顔をしている。
佳織は内容はわからないながらも、素早く雰囲気を察知すると、
「ほら菜都実、茜音のカメラ借りて写真撮りに行くよ!」
「え? それは茜音の仕事じゃ!」
「いいから!」
美保も立ち上がると、茜音と萌だけになった。
「なんだか菜都実が変な事言っちゃったのかな……。萌ちゃん……」
「うん、大丈夫です。少し前に一人になっちゃったんで……」
「そっか……。ごめんね……。菜都実にはきつーく言っておくよ」
「いいんです……。話していなかった私が悪いんだし、この旅行でとても気分転換になりました……」
「萌ちゃん……」
茜音は萌の肩をそっと抱いた。
「わたしねぇ、萌ちゃんが羨ましい……」
「え?」
それまで前をぼんやり見ていた萌が、隣の茜音を見た。
「わたし、失恋経験ないんだよね……。ずっと片思いだから……。今のこの気持ちが叶わないって分かったらどうなるんだろうって……。それを考えると怖くてね……。ほら、初恋ってなかなかうまく行かないって言うじゃない?」
「大丈夫ですよ……。私はまだ欠陥だらけだし」
「萌ちゃんが欠陥って言ったら、わたしどうすればいいのかなぁ」
大まじめに茜音が悩む顔をしたので、萌が顔を崩した。
「よかったぁ。笑ってくれたぁ。でもね、萌ちゃんはきっといい恋に出会えるよ」
「うん」
振り向くと、お昼の用意が片づけられていた。萌に話しかけながら茜音がやってくれたのだろう。
「茜音さん……」
「いいの。お昼作ってくれたんだもん。このくらいはね? これでもわたしの方が年上だしぃ……」
「はい」
「さぁて、他のみんな連れてくるかぁ……」
彼女を残して茜音は大声で三人を呼びに行った。