自分たちを救助してくれた恩人が目の前にいる。

「今までお礼も言えなくて……。見つけていただいて、本当にありがとうございました」

 衝撃の事実を知り、茜音はすっかり眼が冴えてしまっている。

「あのときはお母さまもご一緒でしたね。今もお元気ですか?」

 彼ら救助隊は茜音たちを発見してくれ、ヘリコプターを誘導してくれるまでだったので、その後の事は知らされていないのだろう。

 茜音は力無く首を横に振り、救助搬送された先の病院で母を看取ったという12年越しの事実を伝えた。

「そうですか……。それでは本当に苦労をされたでしょうに……。萌ちゃんからみなさんの事は少し聞いてはいたのですが……」

 茜音はあの後のことを簡単に話した。

 そして今回、この地にやってくることになったきっかけについても。

「そうですか。是非見つけてください。それが茜音さんにとってこれからを生きていく希望になるのでしたら」

「本当に、今回は萌ちゃんにお世話になっていて……。でも、萌ちゃんはなにかこちらに近づくにつれて顔色も冴えなくなって……」

 東京駅で会ったときはそれほどでもなかったけれど、こちらに近づくにつれ萌の表情は少しずつ影を落とすようになっていた。

 誰も指摘してはいないのでそれは茜音にしか気づかない位なのかもしれなかったけれど……。

「萌ちゃんがねぇ……。あの子だけは他の子たちと違って、まだ立ち直れないんですよ……。毎年、この時期になると決まって訪ねてきてくれます。でも、それが……」

 前に聞いた話では、異母姉妹でありながら、母親代わりの姉妹自慢の姉であり、この老人の孫にあたる優子が亡くなってから、もう4年の月日が経つ。

 普通ならばそのくらいの月日が経てば、ある程度は吹っ切れてきてもおかしくはない。

 茜音と違い、一人になってしまったわけではなく、三人もの姉妹が一緒にいてくれての話だ。

 よほどのことがなければ、ここまでに陥ることは珍しいかもしれない。

「そうですね……。でも、わたしも時々、あのときのことを思い出してうなされます。飛行機も今は平気だけど、昔はだめだったから……」

「こんな事をお願いしては、大変失礼かもしれませんが……」

 老人は茜音の方を向いた。

「はい?」

「今回限りではなく、萌ちゃんのことをこれからも見続けてやってもらえませんか? さっき、あの子も茜音さんのことが気になるようでしたので……」

「そうですね……。萌ちゃんはさっきのお話を知っていますか?」

 茜音は萌が時々見せる切ない表情が気になって仕方なかった。14歳の女の子の顔にしてはあまりにも頼りなくて、何とかしてあげなくてはという気持ちが芽生えていた。

「いや。間違えたことを伝えてはいけないと。でも、茜音さんと確認ができたので、茜音さんさえよければ聞かせてあげたいことですね」

「萌ちゃんにはわたしからも話します。でも、いきなり言っても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ。あの子は味方になってくれる人にはきちんと心を開いてくれる子ですからね」

 本当の孫ではなくとも、その老人は萌のことをちゃんと気にかけているのが分かる一言だった。

「そろそろあの子も戻ってきます。私はそれを待って戸締まりをしますから。明日は早いのですから、もうお休みください。飯田線は1本乗り遅れると大変だからねぇ」

 あの当時と同じ笑顔に見送られ、茜音は寝室へと戻っていった。