豊橋駅に到着する。在来線なら名鉄や快速列車の停車駅として存在感のある駅だけど、新幹線だと「のぞみ」はもちろん、「ひかり」でさえほとんどが通過してしまう。
「まだ時間はあるよね?」
階段を下りながら、予定を確認する。
「次の岡谷行きまで、1時間半あります」
「その前の列車じゃだめなの?」
「菜都実ぃ、調べたでしょうがぁ……」
この先は飯田線に乗り換えての旅。
途中の豊川までは本数も多い。その先になると線路も単線になり、1時間に1本程度のローカル線となってしまう。
茜音たち三人も事前にもらった情報を元に調べて、探索の地域はまさにその超ローカル線地帯になるという事が分かり、案内役の萌がいなければ候補から外してしまいそうな地域だ。
「少し早いですけど、お昼にしますか?」
「あたしいつもの洋食屋さんがいい!」
「そこ美味しいの?」
萌の提案に真っ先に答えたのが美保で、すぐに菜都実が喜々として続く。
「うん、大きくて美味しいよぉ」
「菜都実さぁん? あんたまだ食べる気……?」
東京で駅弁を二つ平らげ、車内でもずっと何かをつまんでいたように思えるから、さすがにと思っていたのだけど、どうやらその考えは甘かったようだ。
「もち! 旅行の時は胃のリミッターが外れるみたい」
「はぁ……」
茜音と佳織のため息があまりにも大きかったので、萌はたまらず口を押さえて笑い出してしまった。
「分かりました。菜都実さんと美保ちゃんは大盛りで注文してくださいね」
美保に任せたお店で全員が空腹を満たすと、ホームに列車が入ってくるところだった。
「2両?」
「菜都実は初めて? この前の千夏ちゃんのところは1両で走ってるよぉ」
「まだ『電車』ってとこだけマシと思いなさいって」
「佳織、なにげに鉄道マニアか?」
「鉄子ちゃんとでも呼んでくれる?」
「誉め言葉かそれ……?」
これまで茜音が二人と一緒に出かけてたのは、少なくとも電車で十分に身動きがとれる地域で、列車も5両近い編成で走っていることがほとんど。全国に目を向ければ1、2両で走っている路線はいくらでもある。
幸い車内はそれほど混雑していなかったので、左右両方側にシートを確保できた。
「ここからは1時間以上かかりますから……。近くなったら教えますね」
通路向かい側のシートに座っている萌が教えてくれる。美保と萌が左右に席を取ったのには理由があったのに気づくのは少し先のこと。
列車はしばらく住宅地を走っていく。豊川を通り過ぎて、線路が単線になると、少しずつ様子が変わってきた。
「だんだんと景色が変わるなぁ……」
まだ市街地を走っている内はいい。前方に見えてくる山に近づくに従って、車窓は少しずつ緑が多くなってくる。水田や畑なども多く見られるようになる。
「茜音さん、そろそろ窓に注意してください。高い鉄橋が2本来ます」
「はう。ありがと」
他の二人もやはり気になるので、窓の外を注目する。
鳥居の駅を出発してすぐ、豊川に合流する2つの川を渡る。そのときの風景に注意するようにとのアドバイス。
一瞬の間に、次々に水面まで20メートルクラスの鉄橋をクリアする。
「あ~、もう少しよく見てみたいなぁ……」
すぐに通過するだけに、あまりじっくり見てはいられない。
「大丈夫です。一応写真も用意してありますから。でも先に見ちゃうと先入観が入っちゃうと思って……」
窓の上半分を開けて、同じように外を見ていた萌。
写真は撮ってあるのだけど、とりあえず実際に見てもらった方がいいという計らいだったらしい。とても、中学生には思えない気配りだ。
「でも、ぱっと見た感じはどう?」
「ん~、たぶんあんなに大きくないかもしれないなぁ……」
川の水量なんてものは、時期やその日でも変わってくるので、あまり当てにはならないのだけれど。
「両側から見たかったねぇ……」
「そう思って反対側は写真を撮っておきました。あとで見てくださいね」
「そうかぁ……。せっかく反対側にも席あるんだから見れば良かったよねぇ……」
それでもまだ萌が写真を撮ってくれたというのが慰めだった。
「もうすぐ着きます。忘れ物ないようにお願いします」
そう言っている間にも、列車は川沿いを上っていく。
「あそこいいなぁ~」
線路と反対側の川岸は、水遊びが出来る公園として整備されており、車で遊びに来ているのが見える。
「荷物置いたら、近くの河原に美保ちゃんに案内してもらってください」
「もう、ワンパターン扱いしてぇ……」
「あれ? 行かないの?」
「行くってば!」
窓の外を眺める暇もなく、電車は小さなトンネルを抜けたところの駅に到着した。
「ここも変わっちゃったねぇ……」
「そうだねぇ」
双子の姉妹が小さなコンクリートでできた待合室を見て話している。
「どうかしたの?」
「いえ……、大丈夫です。すぐですから早く行きましょう」
茜音は一人たたずんでいた萌に話しかける。すぐに彼女は表情を戻して先に進んでいる一行に続いた。