数日後の土曜日、三人は横浜市内の外れにある駅の前で、その人物を待っていた。
「まさか横浜だったとはねぇ…」
菜都実が驚いたように見回す。
近所の市と言えども、その広さは半端ではない。鉄道の路線は何本もあり、その駅はいくつあるか数えたこともない。
「でも、よく会ってくれるって言ってくれたね」
「茜音のあの話を聞いたら、優しい人ならOKしてくれるよ普通……」
菜都実が言うが、ここまで来るにはそれなりに大変だったのだ。
メールのやりとりが進む中で、管理人である夢空職人嬢と直接会って、写真の撮影場所などの話を聞きたいと提案したのだが、なかなかいい返事はもらえなかった。
仕方なく、茜音がこれまでの経緯を話し、もしかしたらこれまでに撮影で訪れたことのある場所に、探し求める場所があるかもしれない。その協力をお願いしたいという内容を書いた。
驚いたことに、すぐ返答があり、落ち合う駅と時間、そこに迎えに行く人物の特徴と画像を送ってきてくれたのだった。
「それにしても、可愛らしい子だよねぇ」
「この子本人じゃないでしょう? いっくらなんでも若すぎるよぉ」
「妹さんなんかなぁ」
プリントした写真を見ながらそんな話をしていると、待ち合わせの時間になった。
「ねぇ、あの子かなぁ?」
茜音が中学生らしいセーラー服を着た少女を見つけた。
彼女もすぐに三人組に気づいたらしく、小走りでやってきた。
「あの……、片岡茜音さんですか?」
「うん、あなたが迎えに来てくれた人?」
茜音が答えると、その少女は安心したように微笑んだ。
「はい。私、大竹萌と言います。お待たせしてすみません」
と頭を下げた。
今時の中学生にしてはかなりしっかりしている部類に入るだろう。
大きな瞳が特徴の可愛らしい顔立ちに、背中まで届く黒く艶のある髪の一部を左上でヘアゴムを使ってサイドテールにしている髪型。
学校の制服であろうセーラー服の着こなしも上下ともきちんとしていて、一目見ただけでも彼女の性格を表しているように見えた。
茜音からみたとき、高知で知り合った千夏の印象に近いことから、探せば同じような子はいるのだと不思議に思った。
駅前の商店街を萌に導かれて歩いていく。15分ほど歩いた住宅地の一戸建ての前で一行は足を止めた。
「ここです」
萌はスカートのポケットから鍵を取り出し扉を開ける。
三人をリビングに通すと、萌は冷えた麦茶を出してくれた。
「今、ちょっと着替えてきますね」
階段を上がって行く姿を、嬉しそうに見送る茜音。
「可愛い子だよねぇ。あんな妹いたら可愛がっちゃうなぁ……」
「茜音ぇ、あの子は違うでしょ? それにしても他の人は留守みたいよ?」
「あ、そっか……」
そう。ここに来た目的は、例のサイトの管理人に会うためだ。その妹に会うためではないのだけど……。
その疑問は数分後には驚きに入れ替わることになった。