日が西にだいぶ傾いた頃、車はようやく最後の場所にたどり着いた。
「さぁ、今日は結果はともかくこれで最後だよ。どのみち、ここから別の場所に行こうとしても、夜になっちゃうしね」
車を道路脇の空き地に停めて、運転席から振り向いた雅春から説明を受ける
この辺りはもう四万十川の本流ではない。
すでに高知県からも出てしまい、隣の愛媛県に入っていた。線路はこの辺りまでは川と並行して走っているけれど、そのあとは比較的平地を走るようになり、茜音が目指すような場所ではなくなってしまう。
後部のスライドドアを開け、茜音が真っ先に飛び出し、千夏がそれに続く。
川岸への下り坂を降り、川砂利の上を鉄橋の付近までゆっくり歩みを進める。
「どう……?」
隣を歩く千夏が恐る恐る聞いた。
今日1日見続けてきた他の場所と同じように、このあたりも大きな集落はほとんどない。
鉄道の線路と通ってきた道の他にある人工物は所々にぽつんと建つ民家だが、そこに人が住んでいるかまでは分からない。
これまでと同じように、どちらかと言えば寂しい場所。
茜音は、最後の場所であることと、陽の光が弱くなっているのも手伝って、それまでよりも注意深く周りを見回した。
頭上にかかる鉄橋だけでなく、河原の風景やむき出しになっている岩の感触まで。
見て触って、あの当時の思い出の風景と、目の前の風景の中で少しでも重なるところはないかと念入りに照らし合わせていった。
しかし……、
「ごめんね……、千夏ちゃん。ここも違う……」
申し訳なさそうに、茜音は首を横に振った。
「そっか……」
力を落としたように、石の上に座り込んだ茜音の元に、千夏は駆け寄った。
「ごめんね。ずっと付き合わせちゃって」
「ううん。茜音ちゃんこそ、ここまで来てくれたのに……」
今回の結果は誰のせいでもない。最初からそれは分かってはいるけれど、千夏は茜音に申し訳なく思っていた。
「ほえ? いいんだよぉ……。覚えていないわたしが悪いんだもん。あと1年あるから、それまで頑張るよ」
「なんか、その気持ち、凄いなぁって思ってるんだ……。私だったら出来ないかも……」
千夏は車を見上げた。他の三人は夕食の場所を検索サイトで探しているはず……。
「千夏ちゃんには和樹君がいるでしょ?」
前の場所で、和樹の気持ちを察した茜音だったけれど、敢えてそれは出さないようにする。
「和樹のこと、そこまで思えるかどうか分からないよ……。茜音ちゃんみたいに、大事な思い出があるわけじゃない。小さいときからの腐れ縁ってやつ?」
「そっか……」
でも、千夏の本心はそうじゃない。分かってはいるけれど、それは黙っていることにした。
「昨日の夜、どこまで話したっけ?」
今日は朝からずっとみんなで一緒にいたからこんな話はできなかった。
ようやく二人きりになれたこともあって、千夏はぽつりぽつりと和樹との思い出を語り始めてくれた。