出発前に今日のコースをみんなに説明する。

 千夏たちの通う高校の近くにJR予土線が走っており、今回はその線路にそって進められることになっていた。四万十川本流と、宇和島に向かう山岳地帯を含め、全部で10カ所ぐらいだという。

「これより東になると、もうある程度開けた場所になるから、どちらかというとここから西だろうな……」

 地図を見ながら、雅春の言うことを聞いてみる。全体地図や流域図を見る限りではそれほど広い地域ではない。しかし……、

「道狭いから、後ろの席も喋ってないでしっかり前見ていないと危ないぞ」

 助手席で和樹が言うと同時に、車は急カーブを切った。

「もうー、もう少し丁寧に運転してよねぇ……」

「これでもトンネルができたりしてよくなったんだ。昔はもっとひどかった。旧道だったらこんなに飛ばせない」

 普通、国道や県道と言う物は、最低でも片側1車線ずつはあって、整備も行き届いてると思いがちだが……。それは都市部や幹線道路の一部だと言うことが分かる。

 ここ四万十川の流域も例外ではない。川に沿って走る道は、地図上には県道と記載されてはいるものの、場所によっては車が1台ようやく通れるような細く曲がりくねった田舎道の場所もまだ残る。

 すれ違う車のことも考えたら、それほどスピードを出せるような場所ではない。

 そんな道が続くものだから、地図上の地域は狭くても、実際にそこを回るには相当の時間がかかってしまう。

 鉄橋を探すために、途中で車を止めながら、ようやく最初の場所に着いたのは、千夏の家を出発してから、2時間は経ってしまっていた。

「さぁ、着いたぞぉ」

「うわぁ~」

 先ほどの沈下橋の所では、川は平野を流れていた川が、また雰囲気は山の中に入ってしまったように見える。

 周りを見ると、今走って来た道路は川沿いに作られた細い道路で、反対側は少し開けている感じだ。まだ人の気配はする場所に、少しほっとする。

「あそこに鉄橋があるだろ?そっちまでちょっと車が入れないもんでね」

 雅春も河原まで降りてきて、茜音に教えた先には、立派な鉄橋がかかっている。この場所はよく列車の撮影ポイントなどに使われるそうで、比較的河原も広い。

 茜音は周りを見回してみた。あの当時から9年という年月が経っていること、当時の彼女の年齢からの視線や見え方の違いなどを考慮すると、簡単に判断はできない。

 当時は大きく見えたものが、成長と共に小さく、別の物のように見えてしまうのはよくあることだ。

 これまでの調査と同じく、茜音は全体の風景よりも、頭の中にある1つ1つの記憶の部品との照らし合わせを念入りに行っていた。

 1つでも一致しそうなものがあったら、他にも探していく。全てを試してみて、当てはまらないと思ったら断念する。その繰り返しだった。

「ごめんなさい。次に行ってみてください」

 河原に降りて15分ほど。茜音は千夏と雅春に告げた。

「了解。それじゃ次行ってみようか」

 車に戻って、次のスポットを探して車を走らせる。

 周りの風景は、前よりも山奥に来てしまったように見えるのに、実はさっきよりも下流だと水の流れがちゃんと教えてくれている。不思議な川だ。

 それから数カ所、それらしい場所に止まってみたものの、茜音の琴線に触れる場所は現れなかった。

「ごめんなさい……。こんなに広くて時間がかかるって知らなかったから……」

 道の駅に車を止め、積み込んできたお弁当をみんなでつつきながらの昼食。茜音はメンバーに頭を下げた。

「そんなので頭下げないでよ」

 香澄は茜音の肩をたたく。もともと根気が要る作業だとは、茜音の話を前夜に聞いて、覚悟はしていたこと。

「まぁ、時間かかることは確かだよねぇ」

「このペースなら今日で回りきれるよ」

「あんまり茜音ちゃん急かしちゃダメだよぉ」

 地元の四人も、これまで通り過ぎたことはあっても目的を持って止まりながら来たことはなかったので、いろいろ新しい発見があって楽しんでる様子に救われた。

「どう?こんな感じの所だったのかな?」

 雅春が聞く。茜音がこの流域に来ていることは、登録しているSNSなどにはもう流れている。彼女の話に賛同してくれ、情報を提供してくれている人たちに、結果は報告しなければならない。

 次に備え、次の候補地での彼女たちのサポートを行うための体制が、茜音の候補選びとは別のところで雅春達の手によって作られつつあった。

「はい、こんな感じな所ではあるんですけど、これだって決め手がないんです……」

「そうか……。とにかく次に進んでみようか」

 地図で大まかな目的地を確認すると、車はまた走り出した。