「千夏ちゃん、おはよう」

「茜音ちゃん、疲れてたんだね。よく寝れた?」

「うん、なんか先に寝ちゃってたみたい。ごめん……」

 翌朝、まだ太陽が顔を出す前に目を覚ました二人。それにも関わらず千夏の兄の雅春は、既に和樹と香澄を迎えに出たあとだった。

 大急ぎで身支度を済ませ、全員分のお弁当を詰めていたときに、車が戻ってきた。

「あれ? お兄ちゃんいつもの車と違う?」

 千夏が驚いたのは、いつも雅春が乗り回しているコンパクトな乗用車ではなく、ミニバンになっていたから。

「あれも五人乗れるけど、長旅になるだろうから、広い方がいいだろ?」

 昨日、茜音を迎えにいったときに乗り替えたなら別として、こんな早朝からレンタカーを借りることはできないから、知り合いに頼んであったらしい。

「さすが」

「その代わり、借り物だからナビとかは使い慣れてない。誰か地図を見ること。千夏見るか?」

 方向音痴な自分に地図を持たせるなんて、それこそどこに行くか分からない。

「えー? なんで私? 和樹見てよ、男でしょ?」

「俺?」

 もう理由は何でもいい。千夏の頭がフル回転して、ようやくひとつの理由を見つけ出した。

「この間、出かける約束をすっぽかした天罰!」

「そーだそーだ。あのとき千夏は和樹のこと健気に待ってて結局どこにも行けなかったんだから、そのくらいちょろいもんでしょ」

「げ……」

 結局千夏と香澄に弱みを握られていた和樹が助手席で地図を見ることになり、女子三人が後部を占領することになった。

「うーん、どうしようか。一口に四万十川と言っても、本流支流合わせるときりがないし、その中で橋が架かっているのも数が多いから、鉄道の橋に絞っていけばいいのかな?」

 雅春の言うとおり、四万十川と名前の付く本流は全体のごく一部で、途中でいくつもの支流が合流している。

「わたしはこっちの地理全然分からないから、お任せするしかないんですけど。道路の橋は記憶にないので、それで大丈夫だと思います」

「なにせ四万十は橋だらけだからねぇ」

「そんなに多いんですか?」

 香澄のつぶやきに心配になって尋ねる。

「大丈夫だよ茜音ちゃん。全部の橋を探し回ったら大変なことになるけどね。もともと四万十川は沈下橋(ちんかばし)だらけだから……」

 その心配そうな顔がよほど気の毒そうに見えたのか、千夏がすかさずフォローを入れた。

「ほえ? 沈下橋……っていうの?」

「あれ、わざわざこんな遠くの川まで橋を見に来るから、知ってるのかと思ったよ。じゃぁせっかくだからそれを最初に見せてあげなくちゃね」

 香澄の一言で鉄橋とは違うけれど……と、最初の目的地が決まった。