夕食後、千夏兄妹、香澄、和樹、茜音の五人は千夏の部屋に集まった。
それぞれの自己紹介のあと、茜音を除く四人は彼女の計画について詳しい話を聞きたがるのは自然の流れだ。
「もちろんいいよ。じゃぁ、話すね……」
声を一段小さくして、茜音は言葉を続けた。
「……この中で、もう12年前に起きた飛行機の事故を覚えてる人っているかな……?」
雅春を除けば、全員が当時5~6歳だから、覚えていなくても不思議ではなかった。
「確か、山の中に墜落した奴だな……。助かった人がほとんどいなかったって……」
雅春はそこまで言うと、千夏の部屋を飛び出し、しばらくして古いスクラップ帳を持ってきた。
「親父のが残ってた。大事故だったからな。どの新聞にも大きく取り上げられて、テレビじゃそのニュースしかやってなかったってのだけは覚えてる」
車座の中心でパラパラと古い新聞記事を見ていくうちに、全員の目があるところに集中した。
茜音が辛そうに目を伏せる。
「わたし、その時に助けられた一人です……。お父さんもお母さんも、わたしのことをかばって助かりませんでした……」
「まさか……。生存者に佐々木茜音・6歳ってあるけど……、それが君なのか?」
「はい……」
かすかに頷く茜音が、他の四人には本当に小さく見えた。
「片岡の姓は、今の両親に引き取られてからです……。その事故でわたしは家族も全て失ってしまいました……」
そのあとの話を彼女は続けた。失語症になったこと。病院での生活から、児童福祉施設に移ったこと、そして健と約束を交わしたあの最後の日のことも。
「さっき千夏ちゃんに、これしかないからって言ったよね? わたしには他に信じる物が残っていなかったんだよ……。わたしに残っている物なんて何もないから……」
無言で聞いていた四人は、すぐに返す言葉がなかった。
「ごめんなさい。でもね、その約束のおかげでわたし、一人でも9年なんとかやってこられた。結果はどっちでもいい……。ただ、確かめたいの……」
「こいつは……、想像以上に深い話だなぁ。見つけださなくちゃ」
それまで黙っていた和樹も思わず唸る。他の三人も一同に頷くしかない。
「あ、でもすぐに見つかるとは思っていません。覚えてないわたしが悪いんだから」
「そっかぁ。それで一番最初に来たのがここだってわけ?」
「川の上から下まで見て行かなくちゃね」
「まぁまぁ慌てるな。さっきの茜音ちゃんの話だと、ある程度場所絞れそうじゃないか。千夏、下から地図もってこい」
千夏が1階から道路地図を抱えて戻り、五人は高知県の山間のページを覗き込んだ。
「茜音ちゃんの話だと、あまり下流の方じゃないって事が分かる。四万十川沿いで鉄道って言ったら予土線で窪川くらいまでだから、そんなに場所は多くない。ポイントは絞れるさ」
自分の車で走り回ってるだけのことはある。話を聞けば、明日回るその場所では、途中千夏の家の周りよりずっと山奥になり、人家さえも少なくなってしまう場所だという。
「そんな場所なんだぁ……」
「明日は早いぞ。二人もついてくるんだろ?」
こんな話を聞いて、最初から同行する予定の千夏はともかく、和樹や香澄の二人が黙って留守番をしているわけがない。
翌朝の再会を手を振って約束した二人を雅春が車で自宅まで送り届けている間に、茜音と千夏は先に休むことになった。