「へぇ、じゃ最初は四万十川なんだ」
「うん。今のところね。むこうで案内してくれるって。写真も何枚か送ってくれたし」
「あたし、四国は行ったことないんだよなぁ……」
ウィンディでの昼下がり、ランチタイムも終わり、店の中に残っているのも少しばかりの常連さんとなったので、茜音、菜都実、佳織の三人は奥のテーブルで遅いランチにしているところだった。
テーブルの上には、佳織が持ち込んだタブレット端末が置かれている。
先日の佳織の即席工事のおかげでウィンディの店内でも無線LANが使えるようになって、どれだけ写真をダウンロードしても通信費は気にする必要がなくなった。
「案内って、自分で動ける感じじゃないんだ。その辺はどうなの?」
「んー。残念だけど、私たちが勝手に行って勝手に帰ってくるわけには行かなさそう」
「なんで?」
菜都実の質問に、佳織は画面をタップすると、ブラウザの画面を見せた。そこには四国のバス路線などが表示されている。
「この通り、この辺なんかと違って、電車もバスも多くないんだよ。しかも茜音が行きたいような条件の場所には路線すらあるかどうか……。鉄橋だから鉄道はあるにはあるんだけど、それも1時間に1本あるか。あちこち途中下車したら山の中で野宿しなくちゃならなくなるのは確実ね」
「ありゃー」
菜都実は小さい頃からあまり地元から離れたことがないと言っていた。
まだ車を運転できない彼女たちにとって、電車やバスは大切な交通手段。それが無い場所にはあまり縁がなかったのだろうが、少し地方に行けば、車がないと全く身動きがとれない場所はいくらでも存在する。
「これじゃぁどうしようもないね……」
肩をすくめる菜都実。彼女一人だったら、そんな場所には絶対に行きたがらないだろう。
「まぁ、それで情報提供してくれたお兄さんが案内してくれそうな話にはなっているんだけどねぇ」
「ほぉ?」
そこで、茜音は発端を話してくれた。彼女が登録してあるSNSでの情報を集めてしばらく、あちこちからの情報が集まってきた。
関東近辺から、北は北海道、南は九州までと場所は様々。とてもではないが一度に全部行ききれるような数ではないし、全部を回っていたら、あと1年では足りない。
そこで可能性が高そうな所に狙いを絞ることにしていた。
東京近辺で、彼女たちがすぐに行けそうな場所は既に夏休みに入ってからの数日を使って回っていたが、それらしい物は見つけられなかった。
結果として、茜音も自分が住んでいる周辺でなさそうだと言うことは分かってしまったのだけれど……。
そこで、渓流の多い、また橋も多い地区を調べていくと、いくつかの候補に絞れそうではあったものの、そのどれも茜音がすぐに日帰りで行けるような場所ではない。
最初に決めた、高知県、四万十川周辺もその1つだった。たまたまその話を読んでいた高知市在住の大学生のお兄さんが案内役を引き受けてくれるということで、今回の出発が決まった。
「そっかぁ。あたし達も行きたいけど、ちょっと急だったね……」
「そうだねぇ。もう少し早く決まれば良かったんだろうけど……」
「茜音、気を付けなよ? メールだけじゃ人なんて分からないんだから」
菜都実の言うことにも笑ってばかりはいられない。残念ながらネットを介する犯罪も多いだけに、情報を鵜呑みにするわけには行かない。
今回の話は、茜音も何度かやり取りをして、状況を考えた結果問題なさそうだと決めたことだった。
「何か分かったら連絡するから。心配しないで」
「そうよ、茜音は修羅場くぐり抜けてきてるんだから、大丈夫だって」
「あぅ、なによそれぇ?」
そんな二人に見送られ、茜音はその週末、朝1番の飛行機で高知へ飛び立った。