佳織は掃除をしていた駅員に駆け寄った。
「すみません。今朝の列車でこんな子降りませんでしたか? 小出から来ているはずなんですけど」
再び写真を見せて駅員に尋ねる。ネームプレートを見ると、小出駅の係員だと分かる。
「そうですか。この駅は昔は泊まりの係員もいたのですが、ご覧の通り数年前に無人になってしまって、私もこうして各駅を巡回しながら掃除をしているのですよ」
中年の駅員はそう言いながら、茜音の写真をまじまじと見ている。
「この女の子、本当に今日ここに来ているのでしょうか?」
「そのはずなんですが……」
彼は壁に掛かっているカレンダーを見て納得というように呟いた。
「そうか、今日で10年か……」
「えっ?」
佳織はもちろん、後ろで様子を見ていた菜都実もその言葉に反応した。
「知ってるんですか、茜音を……?」
「失礼しました。茜音ちゃんと言いましたね。10年前の夜にそんな子が突然やってきて、話を聞くと施設を抜け出してきたと。複雑な事情があったようで、一晩泊めてあげたことがあったなぁ。そうですか、あの子もこんなに大きくなったのですね」
間違いなく、彼は全ての発端を知っている数少ない証人だった。その本人が証言しているのだから、場所は間違いなくここになる。
「あの、もう一人、同じくらいの男子は見てませんか?」
「さぁ、どうでしょう。他に見てないか聞いてみますよ」
彼は駅舎ではなく、二階にある食堂の方に階段を上がっていき、しばらくして再び降りてきた。
「もう一人はまだ来ていないようです。直接車で向かってしまったかもしれないな。二人とももう免許も取れる年頃でしょう」
「分かりました。帰りに寄るように言っておきます」
「無事に見届けてやってほしいです。あの二人は本当に純粋でしたから」
彼はそう言って笑うと、佳織と菜都実を見送ってくれた。
「間違いないんだ」
再び車での移動を開始する。真弥が話してくれた小さな目印を見逃さないように慎重に車を進めていった。
「あ、あれだ」
菜都実は真弥のヘアアクセサリーの現物を見ているので、電話越しにそれを残してきたと聞いて、黄色いリボンをすぐに見つけだした。
車をすぐそばに停め、数時間前の茜音と同じようにその目印が間違いないものだと確認した。
「茜音いる?」
「わかんない。でも、この足跡新しいよ」
路肩の土に残っている足跡はまだ付いたばかりで崩れていない。
「間違いなくこの下にはいるでしょ。でもあたしたちが出る幕じゃまだないわ。せっかくのシーンに邪魔が入るのは嫌だろうし」
「でもさぁ、茜音物騒なこと書いてたじゃん」
「少なくとも今日中は大丈夫でしょ。茜音だって今日は何も起こさないはず。とりあえずここで待機って感じかな」
「それもそっかぁ」
しかし、その判断が甘かったことに、後で二人は思い知らされることとなった。