佳織と菜都実が慌ただしく出発した頃、茜音を乗せたバスは一路関越道を北に向かっていた。途中の通過時刻を見ている限り遅れはなく、早めの到着となりそうだ。

 夏休みが始まって間もないということもあり、夜行バスでありながら学生グループや家族連れなども見られたので、茜音が一人その中に紛れ込んでいたとしてもあまり目立つことはなかった。

「ふわ……」

 小さくあくびをかみ殺す。

 結局昨日は昼間を含め、一睡もできなかった。

 悩んだあげく一昨日の夜にこの行程が組めることを見つけ出し、昨日の朝1番で切符も自分で取った。

 夜中に通過するバス停での途中下車ということもあり、眠れないことも予想できたから、準備ができると昼間のうちに休んでおこうと横になったりもした。しかし努力もむなしく、結局目は冴えたままで出発の時間を迎えてしまった。


 両親には前日から皆で出かけると、この旅で初めての嘘をついたのが心苦しかった。佳織には申し訳ないと思いつつ、自分の中で納得のいく形で結末を迎えたかった。

 あのときも二人きりで夜中に出発した。勝手なわがままだけど、どうせなら同じように出発したいと思った。


 今日の結果予想を聞かれても、自信は全くない。

 確かに最後に渡してもらえた情報は本物であることに疑いはなかった。しかし、その入手時期は昨年の夏の話であり、その後1年で状況が変わらないという保証など、どこにもない。

 最後に訪れた大宮夫妻のもとで、敢えて現在の彼の連絡先を聞かなかった理由がそこにある。

 とにかく、あの手紙の内容を信じて現地に赴くことしか今の茜音にできることはなかった。


 夜中なので車内放送はなく、運転手の上にある電光掲示板に次の停留所が表示されている。もっとも、乗車の時に切符を見せてチェックされているから、下車することは分かっており、通過してしまうことはない。

 自分でメモしてきた時刻表とスマートフォンの画面で周辺の詳細地図をもう一度確認する。バス停のある小出インターから駅までは3,4キロ。普通に歩けば1時間弱という距離だ。それでも夜中に歩く初めての土地。余裕はあると言っても小出駅からの列車の時間が決まっている以上、道を間違えないように慎重に進むことになる。通常よりは時間がかかると見積もっていいだろう。


 バスは予定より10分早く、午前3時ちょうどにバス停に到着した。こんな時間に途中の停留場で降りるのは当然彼女だけだった。

 アイボリーのカーディガンを上にエアコン対策として羽織っていたので、それなりの年に見えたのか何も問いかけられることもなく降車すると、高速バスは再び目的地に向かって走り去っていった。