「なるほど……。それは良かったんだか、突然すぎたんだか……」
数日後、ようやく学校に出てきた茜音は、今回の旅行中の出来事を話した。
「あまりにも唐突だぁなぁ……。でも、なんか情報はもらえると思ってたんだろ?」
「ううん。全然。本当に、もしダメだったらそのあとどうしようって、そればっか考えてた……」
確かに、今回の旅行は期限直前ということもあり、テスト休みと学校を無理に休んで信州・東北のこれまで回っていないところを駆け抜けるという超強行軍になるはずで、だからこそ茜音が一人で出発した。
いわば彼女にとっても背水の陣だった。
残る二人もネットでの情報を逐次旅先の茜音に送り続ける役目もしていたのに、突然連絡が途絶え、動きが分からなくなったと思ったら、次には日程をすべて切り上げ、帰路についたという。
最後の探索の旅が無駄でなかったことがようやく分かったのだが、二人が思っていたとおり、茜音の不安はその次に向けられていた。
「そんでもさぁ、来週末でしょ? もう悩んでいる時間もないような気もするんだけど?」
菜都実が言うように、その日はもう次の週末に迫っている。これまでの流れで行けば、当日その場所に行くだけで目標達成だ。しかしなかなか単純にものごとは進まない。
「そうなんだけどね……」
「まぁ茜音の場合、別格だよ。思い入れの深さが違いすぎるし……。でも茜音、これで何もしなかったら、それこそこれまでの時間何やってたのって事になっちゃわないかな」
「そうだよねぇ……」
もちろん、茜音もそれは十分に承知している。
昨年までの9年間は思い出を引きずりながらも、どうしたらいいかを考える日々だった。その場所を探しに行くにしても、自分の知識と経験だけでは広範囲に出かけることは出来なかったし、自分一人で全国を渡り歩くということも、さすがの茜音の両親と言えども許してもらえることではなかった。
最後の1年に突入し、菜都実や佳織を巻き込んでの日々。彼女たちの協力に応えるためにも自分は行かなければならないことも分かっている。
「茜音……」
言葉を発しなくなった茜音に、佳織はやさしく声をかけた。
「茜音、もう今日はまっすぐ家に帰りな。そしてよく考えて。茜音が健君に会いに行こうと行かなくても私たちは気にしないから……」
「佳織……」
一応シフトが入っていると渋る茜音を、二人は家まで送り届けることになった。
「ごめん……。情けないなぁ……。本当は胸躍らせていなきゃいけない時間なのにね……」
そして、翌週に入ると、教室の中では妙な空気が流れ始めた。もちろん原因は一つしかない。
昨年の秋以来、学校中で知らない者はいない物語の終結の日が目の前に迫っているというのに、肝心のヒロインであるはずの茜音の様子がどんどんおかしくなっていくのに、佳織と菜都実を除く周囲は戸惑いを隠せなかった。
自分が原因で、悪いことだとは分かっていながらも、ついには周囲の目が気になって教室にいることができなくなり、保健室での自習に切り替えたほどだった。