「茜音ちゃん」

 急に後ろから声をかけられて振り向く。

「あれぇ、理香さんですかぁ?」

 そこに立っていたのは、他ならぬここへの情報をくれた平川理香である。

「早月に話を聞いて急いで飛んできたの。よかったねぇ」

「はいぃ。本当にありがとうございました」

 理香は何度も頷くと続ける。

「これから清ちゃんとこに行くんだけど、乗っていく?」

「いいんですか?」

 清人のところに行くならば、確実に地元までの道。せっかくの誘いなので素直にそれに甘えることにした。

 昨日の昼に連絡をもらったときに、理香と清人は一緒にいたはずだ。茜音の結果が出たことで迎えに来てくれたのだろう。

 駅まで戻り、置いてあった荷物を車に積み込む。

「ずいぶん不用心ねぇ。いくら田舎でも……」

「大丈夫なんですよぉ。駅の椅子にワイヤーロック巻いてあるし、ファスナーのところには鍵かけてありますから。それに、こっちには盗まれても大した物入ってないですし」

 車は峠を登っていき、清里を通過する。もう急ぐ旅ではなくなったので休憩でソフトクリームを食べたりしながらの行程となった。

 途中で連絡を絶っていた佳織へのメールを再び送信した。長い話はあとで話すとして、とにかく茜音が帰っていることと、もう待たなくていいことを伝えておく必要があった。

「とにかく、本当に良かったわ。これで茜音ちゃんの旅も終わったわけで」

「正確に言うなら、最後の旅が残っていますけどね」

「そうか。でも大丈夫でしょ」

「だといいんですけどねぇ」

「こらこら」

 いつの間にか、茜音は助手席で静かな寝息を立ててしまっていた。




「理香さん、茜音は?」

 茜音がまだ助手席で寝ているのを確認し、理香はウィンディの前に車を停めて一人中に入っていった。

 佳織がすぐに奥から飛び出してくる。茜音が連絡を絶ってから気が気ではなかった彼女は、茜音からの帰路途中の連絡に驚いて、帰ってくるのを今か今かと待ちかまえていたのだ。

「疲れたみたいでぐっすりよ。とにかく、詳しい話は本人から聞くといいわ。とにかく無事に帰ってきたことだけは知らせておかないとと思ってね」

「分かりました。本当にご迷惑かけます」

 理香の車が行ったあと、佳織はがっくりと椅子に座り込んだ。

「疲れたぁ。でも、本当に無事でよかった……」

 彼女の目からは涙も流れている。昨日もほとんど眠れなかったと話していた。

「まぁ、怪我もなく帰ってきたんだからいいじゃん。ね、無事だって言ったでしょ」

 菜都実は言って、佳織に水を差し出す。こう言いつつも、菜都実も茜音の動向は心配で仕方なかったはず。ほっとした顔が無言でそれを表していた。

「とりあえずさ、帰ってきたってことは、なんか答えが出たってことでしょ。うちらも今夜はゆっくり寝られるわな」

「そうねぇ。今日は家に帰るわ」

 佳織も作戦室からタブレットを片付け、その日は閉店後の片付けもそこそこに、二人とも仕事を引き上げる。

 茜音の旅とともに、二人のサポートの役目もこの日をもって終わりを迎えたのだった。