翌朝、目を覚ましたときには日もすっかり上がり、祐司はすでに出勤したあとだった。
「ご、ごめんなさいぃ……」
「いいのよ。祐司さんは朝早いから。緊張から解放されたのだから、ゆっくり寝かせてあげてってね」
シンプルながらも和食の朝ご飯を用意してくれていた早月。ありがたくいただき、泊めてもらったお礼にと後片付けや家の掃除を手伝うと、そろそろ帰る時間となった。
「あとは来月の本番ね。頑張ってね」
「はい。応援してくれた人がたくさんいますから」
「でも、絶対に思い詰めないようにね」
「わかりました……」
身支度をしていると、早月がやってきて、是非茜音の三つ編みを結わせて欲しいと言い出した。
「これでも、私も高校までは同じような髪型していたから得意なもんよ」
「そうなんですかぁ?」
今はショートカットの早月。想像してみると、確かに自分と同じ髪型でもそれほど違和感はない。
「きれいで柔らかい髪ねぇ。私のは堅くてダメになっちゃって、大学に入るときに切ったのよ。でも結ってなくても、茜音ちゃんは十分美人よ?」
「これは、会うまではやめられないんですよ。昔からずっとこれだったから。変えるかは今度会ったあとに決めます」
「なるほど、茜音ちゃんの目印なのね。……よしできた」
手早く両方の髪を結い終えた早月は、愛おしそうに茜音を見ていた。
「本当にありがとうございました」
「掃除まで手伝ってもらっちゃってありがとう。是非また来てね。今度は彼氏君付きかな?」
「はい、そうなるかもしれませんねぇ。早月さんも頑張ってください」
「ええ、次の時は三人家族でお迎えするわ」
駅まで送ってくれるという早月だったが、まだ午前中だったので、この場所を歩いてみたかった。早月は簡単な地図を書いてくれ、庭先で姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
鳥の声が聞こえる静かな山道を下っていく。車で上ってきたときにもそれなりに時間がかかったように感じた。下りでも徒歩ではなるほど時間もかかる。
坂を下りきって、大きな橋を渡る。幅30メートルほどの川は千曲川の上流で、河原の看板を読んでみると、鱒や鮎の他、山女魚や岩魚も釣れるようだ。
駅が見える場所まで来て時計と早月が書いてくれたメモにある時刻表を確認する。ついさっき行ってしまったようで、次まではまだ1時間近くあった。
茜音は荷物を待合室に置くと、身軽になって川に戻った。
河原の石に腰掛け、あらためて昨日渡された手紙を取り出した。
「あそこなんだぁ……」
それと昨夜送られてきたメールの場所はちゃんと一致している。真弥たち葉月姉妹は実際にその場を見つけてきたわけだ。
もちろん、彼女たちはそれが答えの場所だとは知らなかったはずで、茜音の話でイメージした場所とのあまりの一致に慌ててメールをしてきたようだ。
そんな彼女には、昨夜のうちに見事な正解を見つけてくれたことを感謝する返事を送信してあった。
当初では2日後にその場所を通過する予定ではあった。ただし時間も夕方だったし、その頃には疲れもたまっていただろう。果たして見つけられたかどうかの自信はない。
そう考えれば他力本願ではあったけれども、今回2つの情報には素直に感謝していた。