「そうだったんですね。健ちゃん……」
祐司の話を聞いていた茜音は、渡された封筒をもう一度見つめた。
「その時に預かったのがその封筒で、その中の話はなにも知らない他人がその場所に行っても分からないと言っていた。茜音ちゃんにしか分からないと。だから開けずに持っていたんだが、ひょんなことから、その条件にぴったりの子の話を持ちかけられて、是非渡さなければならないと思ってね」
「ありがとうございます。でも、健ちゃんは本当に私のことを探せていないみたいでしたか?」
紛れもなく本人と会話を交わした人物である。せっかくなので、いつも不思議に思っていたことを聞いてみた。
「どうも、それはなかったみたいだね。ネットの環境も施設では自分専用には持てないと言っていたし、夜学に行っているみたいだったからね」
「そうなんですか……」
恐らく、昼間は働いたあとに定時制の学校に通っているということだろう。それでは自分たちのように夜にネットで長時間検索というものはできなかったに違いない。
「でもな茜音ちゃん、彼は茜音ちゃんと再会することを本当に楽しみにしている。その手紙の中身を見て、彼に会いに行って欲しい」
「はい。もちろん行くつもりです」
座卓に置かれていたはさみを取り、封筒を明かりにかざす。中の便せんが切れないことを確認して封を切った。
「うん……、そうだよ。ここだよ……」
中の写真に思わず涙が頬を流れ落ちる。
「間違いないんだね?」
「はい……。ここを探していました……」
茜音の反応を見た二人は、安心したようにその場を外してくれた。
そのとき、それまで沈黙していた茜音のスマートフォンにメールの着信があった。
「誰だろ……。真弥ちゃん?」
受信メールを開くと、同じ日に旅行に出ていた葉月真弥からのメールであり、添付で写真ファイルが付いていた。
『大変です茜音さん』と本文には書かれている。あとはファイルを開けと言うことなのだろう。
2つ添付されている写真の1つ目を見た瞬間、茜音は凍り付いた。
「はうぅ」
茜音は気が遠くなって、その場に崩れ落ちた。
「大丈夫?」
「はいぃ。すみません。もう大丈夫ですぅ」
異変に気づいた早月に手際よく介抱してもらったおかげで、茜音はすぐに気を取り戻した。
お風呂をいただいたあと、パジャマ姿で縁側に腰掛けて外を見ている。
「疲れて、気が張っていたのよね。恥ずかしがることじゃないわよ」
「同じ日に同じ情報が入るとは思わなかったですよぉ」
真弥が携帯に送ってきたのは、まさに茜音が訪ねなければならない目的地だった。1つ目は健からの手紙に書いてあった場所の写真。
もう1つは記憶の底に沈んでいた、あの日の二人を保護してくれた駅の写真だった。
健からの手紙の中には、約束の日に当たる今年の日付が書いてあった。
幸いなことに、それは茜音が予定していた日と同じで、これだけの情報がこのタイミングで集まったのは運命かもしれないと思った。
あとはこの情報を元に当日出発すればいい。
祐司から、健の連絡先のことを聞かれたときに、彼女はこう答えた。
「健ちゃんの気持ちは十分伝わりました。いまここで連絡先を聞いてしまうと、この約束の日の意味が薄くなってしまいます。この日にこの場所で会えるかどうか。それが答えだと思っていますから……」
そんな茜音に、大宮夫妻は何かを感じ取った様子だった。