「茜音、いろいろあったんだなぁ……」
「うん……、いろいろあったよぉ」
「よく、頑張れたね。私じゃギブアップしてたかも」
翌日、菜都実と佳織の二人は、茜音をいつもの喫茶店『ウィンディ』に誘った。
これまで学校帰りに喫茶店に寄り道など頭にもなかったのだろう。最初は拒否していた茜音に、
「どうせあたしの家なんだからさ」
この菜都実の一言によって、今はいつも菜都実と佳織が占領することが多い一番奥のテーブル席に座っている。
「いや、佳織がどうしても茜音のことをもっと知りたいって言ったもんだから……」
「うぅぅ……」
切り出した菜都実に少し顔をこわばらせる茜音。
「またぁ……。菜都実は何でもストレートすぎるんだから。違うの。初めて茜音と会ったときから、ずっとなにかを抱え込んでいるような気がして……。この間話してもらったこと以外にも、私たちで手伝えることがあれば、少しでも役に立てないかなって思っただけなんだよね……」
佳織もとっさのことなので上手く説明できたとは思わなかったが、それでも言いたいことは伝わったようだ。
「そうだねぇ。やっぱりまだ学校に行く時の朝は気が乗らないことがある。でも、二人に会えるんだって思ってなんとかお家を出るのは間違いないよぉ」
「なるほどね……。あれだけ小中ときつい時間を過ごしてきていればなぁ。分かった。今度から茜音が大丈夫って言うまで、途中で待ち合わせて三人で学校行こう?」
「い、いいの? わたしも悪いんだと思うから、無理はしないでね?」
「そんなの気にしない! どう聞いたって茜音に非はないわけだからさ。一人で思い詰めることはないよ」
二人に本当のところを理解してもらえたと茜音も理解できたのか、緊張していた顔が少しずつ崩れた。
「うん……。ありがとぉ。初めてだよぉ」
感極まってしまったのか、目を真っ赤にしている。
そう。学校で話しができる友達が欲しかった。たったそれだけの事すら叶わなかったこれまでの学生時代。
「もう、安心しなよ。あたしらがついて居るんだから。それに同じクラスなんだから、大船に乗った気分でいいんじゃない?」
「いいのかなぁ? 二人にも迷惑かけちゃうかもしれないよぉ? それだけが心配で……」
そこまで彼女が慎重なのは、以前から自分と関係を持つことで、無関係の人物まで巻き込んでしまうところを何度も見てきている。そのことによって失った人間関係も少なくないから。
「心配しないで。茜音は気にしないで大丈夫」
「うん、本当にこの二人なら大丈夫だと思うぞ。菜都実も我が娘ながら、無鉄砲はやるがウソはつかないからな」
マスターはカフェラテのおかわりを持ってきてくれた。
「そうですかぁ……?」
「茜音ちゃん、嫌でなければいつでもこの店にも来ていいんだよ。佳織ちゃんも中学の時からいつもこうやって宿題もやってるくらいだから」
どうやら暇なときは宿題などもしていながら、混雑している時には佳織も手伝っているらしい。その分は試作品のケーキや飲み物という形で還元されているようだったが。
「わかりましたぁ。よろしくお願いしますぅ」
「よし、今度の学力テストの対策、明日から始めますか!?」
茜音にとって、これまでの「放課後」は学校からすぐ逃げるように帰っていた時間だったもの。それが佳織と菜都実と友達になったことで、何もかもが新鮮に生まれ変わった最初の1学期はあっという間に過ぎていった。