あの夜の電話から2日後の朝、茜音は千夏を伴って羽田空港の到着ロビーを訪れていた。

「ごめんね。わざわざ来てもらっちゃって……」

 茜音の家からも横須賀土産をもらい、空港でも迷惑をかけたことへのお詫びにと買い込んだ。

「いいの。そんなの気にしない!」

 ロビー内に設置されている大型スクリーンの中で高知からの便の到着を知らせるアイコンが点滅する。

「きっと荷物も何も持ってないよ。折り返しの便ですぐに帰るって言ってた」

 千夏が見せてくれたのは、帰りの二人分のチケットの写真で、和樹の到着予定時刻から2時間ほどしかない。フライトの便名から折り返しとして設定されているものだと分かる。

「そうなんだぁ。本当に飛行機で迎えにくるなんて頑張るねぇ」

「茜音ちゃんに比べればそのくらいやってくれなくちゃ」

「あんまり無理させたらかわいそうだよぉ」

 口は動かしながらも、二人の目は乗客が降りてくるゲートに釘付けになっている。

「あっ……」

 茜音が気づいたときにはすでに遅かった。

 それまで持っていた荷物を足元に落とし、千夏は人ごみの中を走り抜けていく。

「和樹ぃ……」

 茜音がその場にたどり着いたとき、千夏は和樹にすがりつくように涙をこぼしていた。

「ごめんなさい……。心配かけて……」

「いいんだ……。あ、茜音ちゃん……。今回は千夏が迷惑をかけました。すみません」

 久しぶりに二人そろっての様子を見た茜音は、ようやく胸のつかえが取れたような気がした。

「やっぱり、大丈夫だったねぇ……。今回はみんないい勉強になったんじゃないかなぁ……」

「そうっすね。ところで、もう少し落ち着いたところはないのか? いくらなんでもここは目立ちすぎるぞ……」

 外国の映画のシーンならまだしも、やはりこの再会シーンは和樹に少々恥ずかしさもあるようだ。横を通り過ぎる通行人も、そんな空港ならではの微笑ましい光景には寛容ではあるけれど。


 10分後、三人は展望デッキの端にいた。逆に目立つのではないかと思った和樹だが、茜音に案内されてみて納得する。都内でも有数のデートスポットと紹介されるだけに、少しぐらい千夏が気持ちを表したところで目立つことはない。

「そうそう。出発直前に連絡もらったんだけどさ……、香澄のこと」

「あっ……」

 千夏の顔が強張った。先日の電話の後、千夏は泣きそうな顔で茜音の部屋に戻ってきた。

 慌てた茜音が千夏を落ち着かせてなにがあったのかを聞くと、和樹から聞いた話の内容が、この春休みにも香澄が引っ越してしまうかもしれないというニュースだったから。

 結局、今回の騒ぎの発端はそれが原因だったとハッキリした。

 まだ未確定の話だったし、香澄も気にかけている千夏のことも含めていろいろ和樹に相談をもちかけていたのを千夏が誤解していたことが今回の騒動に発展したということが分かったからだ。

「結局は、私の空回りだったってことなんだよね……」

 申しわけなさそうに和樹に顔を伏せる千夏の肩を持って、茜音は首を横に振った。