そう、もう一人ぼっちに戻りたくはない。それが千夏の偽らざる心の声だ。

「ほら……。その気持ち、和樹君に正直に話せばいいんだよ。和樹君だって同じこと考えているのかもしれないし? それが聞けるのは千夏ちゃんだけだよ」

「茜音ちゃん……」

「わたしのいい先生になってねぇ……。うちはもっと大変だよぉ……。10年間の音信不通なんだから……。10年を取り戻すって大変なはずだから……」

 いつも一緒にい続けた自分たちと、10年のブランクを超えていかなければならない茜音とでは状況はかなり違うことになるのは間違いない。

 それでも、同い年で性格も似ている自分なら、茜音の手助けができるかもしれない。それが自分と和樹を結び付けてくれた茜音への恩返しになると千夏は考えている。

「茜音ちゃん……、私和樹にもう一度聞いてみる。ちゃんと聞かないでこのままいつまでも嫌な思いでいるのいやだもん」

「そうだね。きっといい返事が返ってくると思うよ。わたしが思ったとおりの和樹君なら」

「うん。ねぇ、さっきのところもう一度行っていいかなぁ? 考え事して気絶しちゃったからあんまり楽しめなかったから……」

 ようやく千夏に笑顔が戻る。まだ地元に帰るための余裕は十分に残っているのを確認し、二人はもと来た道を戻ることにした。





 その夜、千夏は茜音の家の近くの公園で自分の携帯電話の見慣れた番号を選択した。

「もしもし……」

 コール音が消え、電話はつながっているものの、返事の声はない。

「もしもし……、千夏です……」

 それでも声は聞こえてこなかった。

 諦めて電話を切ろうとしたとき、

「本当に千夏……?」

 小さな声が聞こえた。わずか2日ほどの間しか開いていなかったのにこれほど聞きたかった声。

「うん……。河名千夏です……」

 声の主はようやく安心したようだった。

「今どこにいるんだ?」

「茜音ちゃんのおうちでお世話になってる……」

「そうか……。元気なんだな?」

 ようやく普通の口調に戻る。

「ごめんなさい……。心配かけて……」

「こっちこそ、ごめんな……。千夏の気持ち、気づいてやれなくて……」

 千夏の膝から力が抜けていく。大丈夫。自分たちはまだ先に進むことができる……。

「もう……、ダメかと思った……」

「違うんだ千夏。今から大切なことを話すけどいいか?」

「うん? 香澄のこと?」

「そうだ。だだ先に断っておくけど千夏が想像しているような内容じゃない。もっと真面目な話題だ。話しても大丈夫か? それとも聞かない方がいいか?」

 和樹なりの心遣いだとわかる。

 自分が想像している話題ではないということはもっと深刻なことなのか。

 逆にそれを知らずに香澄とこれまでと同様に会話ができるか……。

「他の人は知ってるの?」

「千夏が飛び出していったあと、誤解していた連中には香澄が直接話している。だから、逆に知らないのは千夏だけだ。香澄からは千夏に話すかは自分に任せると言ってもらえている」

「分かった。何が起きていたのか、最初から教えてほしい」

「よし、じゃあ落ち着いて聞いてほしい……」

 和樹は千夏を落ち着かせるように、ゆっくりとしゃべりだした。