翌日、千夏と茜音は小さな荷物を持って駅に向かった。

「茜音、遅い!」

 駅には先に到着していた菜都実と佳織が待っていた。

「ごめんごめん。でも遅刻してないじゃんよぉ?」

「ごめんなさい。私の準備が遅かったから」



 前日の放課後、バイト先のウィンディに茜音は千夏を連れて行き、遅ればせながら初顔合わせとなる菜都実と佳織の二人を紹介した。

 昨年夏から始まった茜音の場所探しの最初の旅で出会ってからの交友が始まったことを、当時は居残り組だった二人とも千夏のことは話には聞いていた。

 そんな千夏が突然のこととはいえ茜音の家に来ているというのであれば、実際に会ってみたいというのが当然の反応ではある。

 一方、千夏には幼い頃から人見知りが激しいことを覚えていた茜音は、二人に会う前に大丈夫かを聞いていた。

「大丈夫です。私もいつもお話に出てくるお二人に会ってみたいです」

 快諾した千夏をみて、茜音も千夏がこの半年での成長を感じ取っていた。

 茜音が学校を突然休んだ原因の事を聞いて興奮している二人にも臆することなく接することが出来ていた。

 もっとも、茜音が休んだ表向きの理由が体調不良というものだったけれど、佳織も菜都実もまともに信じていなかったのは、放課後のウィンディに呼び出したということでも分かる。

「ひどいよねぇ。体調不良って言ったってわたしだって女の子の日にお腹が痛くて動けないときもあるよぉ」

「うんにゃ。そういうときは茜音はとりあえず出てきて保健室ってのがお約束だし、明日の予定がキャンセルにはなってなかったでしょ。朝から突然ってのは佳織とも『絶対病気じゃない』って話してたんよ」

「千夏ちゃん、こんな二人だから、本当に遠慮しなくていいからねぇ?」

 こんな三人のやりとりを聞いて吹き出してしまう千夏。

「こんなお二人がついていたんですね。茜音ちゃんのページの更新のスピードとか、内容にも納得です」

 そう、茜音のSNSは記事こそ本人が書いているけれど、写真の加工やアップロードの処理、茜音に来てほしいというようなリクエストに対しての対応などはこの二人も交えて回答を返している。

 結局そのまま夕食までをウィンディで大騒ぎのうちに済ませるころには、茜音の最初の心配もすっかりなくなり、千夏も古くからいるメンバーのようにすっかり打ち解けてしまった。



 佳織から告げられたコースとスケジュールは大船駅から東海道線で西に向かう。

「それにしても、よく飛び出してきたねぇ」

 すっかり旧知のように溶け込んで、今回の事情を知った二人が感心したように千夏を見る。

「そんな……。本当に感情だけで飛び出しちゃって……」

「いや、あたしだってそんなことになったら冷静じゃいらんないって。同じように飛び出してくるかなぁ。しかも、相手ボコボコにしてやってからだけど」

「菜都実じゃないんだから……。でも、気持ちわかるなぁ……」

 菜都実に続き、佳織も千夏に対しては同情的だ。茜音を入れた三人とも、やはり何も言わずに他の子と付き合いだしてしまうという状況には素直に受け入れることは出来なさそうである。

 そもそも、翌日の話は家族で出かけた温泉巡りがすっかり気に入ってしまった佳織の提案で、もともと熱海あたりで息抜きをしようと言うのが予定で組まれていた。

 そこに偶然にも千夏がやってきたのだが、一緒に行かないという選択肢は最初から頭にない。当然のように四人での出発と変更になる。

「伊豆半島じゃ大したことないからなぁ……」

 特に目的がないようなこんな休日であっても、茜音が幼なじみと約束をした再会の場所を探しているということは忘れていないし、菜都実や佳織も外出先の情報は調べてくれている。少しでも可能性のありそうなところは現地を回っておきたいと考えている。

「また明日ね!」

 偶然にも半年ぶりに千夏とコンビで出発できることが楽しみになっていた茜音だった。