翌朝、奈良まで足を延ばすという葉月姉妹一行と朝食を一緒にとり、先に出発するのを見送ったあと、のんびりと京都駅まで歩く。

「昨日は先に寝ちゃった。でも、久々にぐっすり眠れた感じ」

「それはよかったぁ」

 幸いにして昨夜降った雪はそれほど多くはなく、歩くのにも支障はなかった。建物の屋根などにはうっすらとまだ残っており、晴れた空に映える景色を作り出している。

「あ~あ。帰ったらテスト返却かぁ。追試だろうなぁ」

 この旅の前には学年末の試験があったから、明日からは全教科の試験が返却される。

 普段はあまり受験と騒ぐことのない茜音たちだけど、3学期は定期試験が1回だけとあり、受験を来年に控えた身としてはあまり軽視はできなかった。菜都実ともすればとても勉強に手を着けるどころの状態でなかったのは想像にたやすい。

 やはり結果はあまりよくはなかったようで、最終日のあとに事情は考慮すると言われたと菜都実は笑っていた。

「でもぉ、菜都実はスポーツ系なのかなぁ? そうすると実技系だからあんまり他の成績は気にしなくても……」

 中学時代は陸上で走っていたという菜都実は、高校進学の際もオファーの話はあったという。

 しかしそれをすべて断り今の高校に進んでから、スポーツ好きは変わらなかったが特定の部活にも入らなかった。

「ちょっとね……。今は本当に平気なんだけど、体壊しかけてさ……。それ以来さ、無理できなくなっちゃって。医者からはもうどんなに飛ばしても平気って言われてるんだけど、怖くてねぇ。進学もまだ決めてないんだ。茜音はどうする?」

 菜都実に言われ、茜音も少し考えている。

「私もまだ決めてないなぁ。そろそろ方向決めなきゃならないんだけどねぇ」

 茜音もこの先どうしていくのか、今の目標は表向きの学校の進路とは直接は結びつかないかもしれない。しかしこの一大プロジェクトの結果は茜音の人生を大きく左右することは間違いない。必然的に、結果如何によっては進路すら変更される可能性はある。

「茜音も進路が決まるのは夏以降だなぁ」

「多分そう思うよぉ」

 駅に到着し、帰りの切符を買う。時刻表を見上げる二人の肩をたたくものがあった。

「お疲れさん」

「あれっ、佳織……?」

 二人とも目を丸くする。家族で出かけていたはずの佳織が、こんな場所にいること自体、予想もしていなかったことだ。

「帰りの新幹線途中下車して待ってたんだから。どうせ自由席でしょ?」

「うん」

 久々にいつもの三人になって、ホームにあがる。

「どう、二人ともいい結果にはなったかな?」

 この京都行きの話をしたときに、先にスケジュールを決められてしまっていた佳織は相当駄々をこねたらしい。

 二人からもなかなか家族旅行はできないからと諭されたから、せめてもと途中下車をしたのだろう。

「うん、まぁね。佳織にも迷惑かけてすまんかったね。茜音は残念だったけど」

「そうだったの?」

「うん、ダメだった。でも、また新しいお友達できたし」

「そうかぁ。まだ半年あるから大丈夫でしょ。ずいぶん絞れてきたしねぇ」

 茜音は残念な結果に終わったとしても、あまり顔には出さない。しかし、長年彼女を見ていると、その裏ではどれだけ落胆しているかと思うと、佳織は最近痛々しく思えるようにもなってきた。

 しかし、それを口に出せるほどの強さは、まだ佳織にもない。

「さぁて、春休みはどこに行こうかなぁ」

 そうつぶやきながら窓の外を眺めている茜音を、二人はそれぞれ違う表情で見つめていた。

「佳織、やっぱりうちのグループは三人だよ」

「え?」

 唐突に出た菜都実の言葉に、佳織は声のした方を見る。

「茜音が一人で行くってのはあったけどさ、ツアコンが抜けちゃ話にならんわ。春休みはたっぷりやってもらうかんね」

 それは、昨日のうちに茜音と菜都実の一致した意見だった。

「はいはい。わかりましたぁ。この分はちゃんとやらせていただきますって」

 茜音の夏まであと半年弱。三人の旅はラストスパートに突入することになった。