「とまぁ、そんな訳よ。だからこれまで出せなくてさ」

 今日の雪で少し濡れてしまったところを、傷まないように茜音に教わりながら丁寧に手当てしていたことからも、普通の品物ではないと気づいていた。

「そっかぁ、由香利ちゃんの形見なんだね。でも、よく似合うよ」

「ありがと。京都は本人も行きたがってたけれど、結局行けなかったんだよ。だから一緒に連れてきたって感じかな」

 大きくため息をつきながら続ける。

「由香利のために、なんかもっとできたんじゃないかって、この2ヶ月ずっと考えてた。でも、あれこれ考えるほど、自分が情けなくなっちゃってね」

「自分を責めちゃだめだよ。それは、わたしも同じ。由香利ちゃんは菜都実のことが本当に好きだって。姉妹だってことが本当に嬉しかったっていつも話してくれたよ。菜都実の気持ちも分かるよ……。それはわたしにとっても同じかなぁ……。でも、そんなときはいつもパパとママを思い出すんだぁ……。パパはわたしをかばうために自分をクッションにした。ママは寒い山の中で、大怪我してるのにわたしのために暖をとってくれて、着ていたコートを脱いでわたしのこと暖めてくれた。だから、菜都実よりもわたしの方がひどいよ。わたしをそこまでしなければ、二人とも助かったかもしれない。パパもママもまだ若かったから、まだ子供も産めたはずなのに、わたしのことをそこまでかばわなくても良かったはずなんだよ……」

「茜音……」

「後になって、いろんな人から言われた。親を死なせたって……。だから、昔は身の上の話もしなかった。わたしだって、代われるものだったら代わりたかった……」

 自分と同じ17歳。茜音自身の存在を否定させてしまうほど、そこまでの考えを言わせてしまう周りの声とはどんなものだったのだろうか。

「みんな同じか……」

 そう言ってからはたと気がつく。自分も先ほどの茜音と同じことを言っている。大切な存在を失う無念さは誰でも同じなのだと。

「由香利ちゃん、菜都実にそういう心配しないでって言いたかったんじゃないかなぁ。姉妹ってそういうの自然に分かるでしょ」

「そうかも。あたしに最後まで心配させないようにって思ってたみたいでさぁ。バカだよ……。辛けりゃ辛いって言えばいいのに……」

 ベッドの上に倒れ込み、嗚咽をもらした菜都実。

 茜音は伏せている菜都実の頭のそばに座る。

「由香利ちゃん、見てるよぉ。菜都実が泣いてたら、心配で天国にも行けないよぉ」

「え?」

 菜都実を見下ろしている茜音の顔は穏やかだった。

「入院していたときに、看護師さんに言われたんだぁ。確かにそうかもしれないねぇ。わたしが泣いてばっかりだったら、せっかく命をくれたのに、パパもママも天国に行けないもんなぁって……。それからかなぁ、泣かないように頑張ったのは……。まぁ、本当に我慢するようになったのは、健ちゃんと約束してからだったけどね」

「なに、そんな約束までしていたん?」

「あれぇ、言ってなかったっけぇ?」

 そういえば、以前この話をしたのは、後にも先にも高知を訪ねたときに千夏に話しただけだったかもしれない。

「たいしたことじゃないんだけどね。泣き虫の茜音は嫌だって言われてね」

「そうかぁ。そうすっと、あたしも落ち込んではいらんないかぁ」

「うん。でも、今日まではいいんじゃないかな。ちゃんと由香利ちゃんのこと考えてきたんだもん」

 よいしょと菜都実のそばに寄り、自分のひざの上に菜都実の頭を乗せた。