「結局、小学校でできた友達は伸吾くんだけでした……。でも、本当に6年生は楽しかったんです」
真弥の告白を二人は黙ったまま聞いていた。
「そうだねぇ……。一人でもいれば全然違うもんね。それはわたしも一緒」
真弥は頷いて続ける。
「中学も一緒に行けるって思ってたんですけど、11月くらいに、中学になったら引っ越しちゃうって聞いて、もうどうしたらいいか分からなくて……。お姉ちゃんと相談して、3年間は二人で一緒に通えるように、附属中学の受験をすることにしたんです。難しいって言われたし、いろいろ言われちゃいました。でも伸吾くんだけはずっと応援してくれて……。合格することができたんですよ。みんな、それで私を見る目が少しは変わったんですけど、結局その頃の私は……、伸吾くんとの別れのことしか頭になくて……。そんな私のために、約束してくれたんです。手術して、元気になったら、真っ先にデートしてくれるって……」
伸吾に視線を向けると、照れくさそうに頭をかいている。
「そんなこと言ったよなぁ。でも葉月に元気になってもらうには他に思いつく約束の言葉が見つからなくて……」
真弥は当時を思い出すように、席替えのエピソードを話してくれた。
「いつも、私の席が決まるのは一番最後で。行動も制限されて、休みも多い。クラスのお荷物だった私と隣になった子には申し訳なく思っていました。伸吾くんの隣の席を私が望むなんて、許されないことだったんです」
小学校最後の席替えで、条件はなく自由だったという。
真弥は最後に空いた席になるからと、最初から話題には入っていなかったという。
『葉月、おまえが来い』
浮ついた空気の中で、伸吾が真っ先に放った一言がクラスの中で強烈な一撃となったのは想像に難くない。
「勝手に熱を上げてくる奴が隣になるより、最初から葉月を隣にしておく方がいいって思ってたしな……」
「なんだか、どこでも同じようなことやってるんだねぇ」
茜音もこういう話になると、自らの経験もあるだけに、いっそう親身になって話に乗れてしまう。
「そうですね。結局1年生の夏に手術しました。すごい長くて、夜中までかかるものでした。成功しても今度はリハビリで、大変だったけど言われたとおりにしました。半年経って、もう大丈夫って言われて……。でも、伸吾君とはずっと会うこともできなくて。そんな私のこと見て、お姉ちゃんが探してくれたんです……。でも、そこで伸吾君が事故の後ずっと眠ったまま入院中だってことが分かって……」
「あうぅ……。それを知るのもきついよねぇ……」
茜音の脳裏に、その事実を突きつけられた時の真弥の様子が想像できた。ただでさえ儚いイメージで、伸吾との再会を望んでいた彼女に、昏睡状態にある彼の状況を飲み込めという方が酷というものだ。
「はい……。もうどうしていいか分からなくて……。最初のうちは泣くだけでした。でも、みんな優しくしてくれて……。でも、決めたんです。どんなに時間がかかっても、目を覚ましてくれるまで待つって」
「そうなんだ……。よく決められたね」
「はい……。あのときに涙も枯れちゃいましたけど。そのあと伸吾くんは目を覚ましてくれて。そのあとはこうしてリハビリを一緒にしていて、でもなかなか最初は思うように行かなくて、二人とも焦っちゃって……。茜音さんのことを知ったのは、そんな去年の夏のことでした……」
俯いていた顔を上げ、茜音を見つめる真弥は不思議なほど穏やかな表情だった。