「ふたりとも、お昼を食べよぉ」
「はいっ」
中学生コンビが待つ岩場に戻ってくると、茜音は途中で買っておいたサンドイッチをあけた。
「ごめんねぇ、こんなとこまで付き合わせちゃって」
「あのぉ……」
真弥は隣に座って、手にした一切れを口に入れる前に聞いてみたかったらしい。
「あぁ、ちょっとイメージと違ってた。ここもハズレだったね」
「そうだったんですか……」
自分のことのように落ち込んでしまった二人の肩を茜音はたたく。
「大丈夫ぅ。こんなこと今まで何度もあったんだから。まだ時間はあるし、次を探せばいいんだよぉ」
本当は茜音が一番落胆しているはずなのにと思うと、真弥は返す言葉をすぐに見つけだせなかった。
「ごめんなさい……」
「なんでぇ真弥ちゃんが謝るのぉ? 1つ候補地を確認して違うって確認しただけだよ。まだ時間も候補地も残っているから大丈夫」
茜音本人よりも落ち込んでしまった真弥。自分を応援してくれている年下の少女にこれ以上気持ちの負担をかけるわけにはいかない。
「でも……。茜音さんもせっかく京都まで遠出してきたのに……」
「まぁねぇ。でも、今回の旅行の主役は菜都実だもん。わたしは今回はおまけ」
「そうなんですか?」
実際に、今回の場所への訪問は菜都実の一件がなければ行われなかったかもしれない。
茜音の中にも暗い記憶として残ってしまっている場所に、一人で行くことはまだできなかっただろう。
不思議そうな顔をしている二人に、菜都実に話した内容の要点を話すと、真弥は大きくうなずいた。
「私もいつも一人でしたから……。お姉ちゃんしか外で話せる人がいなくて……。でも……、ひとりだけ違ったんです。」
そこまで言うと、真弥は隣に座る伸吾に視線を向けた。
「今じゃ、完全に立場が逆転しちゃったけどな」
もちろん、真弥の視線の意図は理解しているだろう。伸吾が続きを受け継いだ。
「葉月はなにも悪いところはなかった。それなのにあまりにも酷い扱いをされていた。それが許せなくて……。それがきっかけでした」
「えー、そうだったの?」
「だって、あれは見てても酷いもんだったしさ。思っていても誰も手を出すことができなかった。でも葉月がお姉さんと話すときの素顔見たらさ、ライバルがいない今がチャンスって」
伸吾が顔を赤くする。
「ライバルなんて、そんな言葉私には関係ないって思ってた」
当時はそうだったかもしれない。ただ、こうして出会ったばかりだとしても、茜音の記憶に残ったほどのインパクトはあったわけだし、実際に中学3年生としても美少女の部類にはいるだろう。
「よく、そこで勇気出せたんだね。偉いなぁ」
そんな真弥の本当の姿を見初めた伸吾が、周囲からの評判を恐れずに彼女の味方についたことはほかの男子には出来なかったことだ。
「でも、葉月から茜音さんの話を聞いたときには正直に『敵わねぇ!』って思いましたよ。結果が見えてるのに、二人で抜け出したんですから。自分はこんな体なので、迷惑ばっかりかけてますけど……」
「迷惑だなんて思ったことないもん! 本当に帰ってきてくれて、嬉しかったんだから。ひとりぼっちに比べたら全然違うもん!」
茜音が興味を持って聞いていると分かると、真弥はぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。