「失礼します……」
先にテーブルに着いていた三人にも相席の了承は取っていたのだろうが、そこに案内されてきたのが、茜音と菜都実ということにも驚いてる様子だ。
すぐに確かめるように、
「おはようございます。昨日も所々でお見かけしましたね」
と声をかけてきたことからも、お互いに存在が気になっていたことが分かる。
遠目ではよく分からなかったが、近くで見ると、やはり年齢差がある組み合わせだと分かった。声をかけてきた彼女の方が年上らしい。
「やっぱりそうだったねぇ」
「茜音も目立つからねぇ……。お互いチェックしてたってことか……」
そのやりとりを聞いていた三人が目を丸くした。
「あ、あのぉ……」
それまで黙っていたもう一人がおずおずと口を開いた。
「なにぃ?」
「い、今、『あかねさん』て言いましたか……」
「うん。あ、自己紹介してなかったね。わたし、片岡茜音。こっちは友達の上村菜都実だよぉ」
その名前を聞いて、三人とも顔を見合わせる。
「ひょっとして……、10年ぶりの再会のためにその場所を探してるって……」
「ほえぇ? なんで知ってるのぉ?」
思いがけず、初めての相手から自分の情報がでてきたことに、茜音の方が驚いた。
「うちの学校では結構有名ですよ。あ、申し遅れました。私、葉月美弥と言います。お二人よりひとつ上の高3です。こっちは妹の真弥で中3です。その友達で同い年の坂本伸吾くん」
姉の美弥が答える。続けて彼女たちもこの連休と試験休みをつなげてやってきたことを教えてくれた。
「そうなんだぁ。ちょっと恥ずかしいなぁ」
「去年の夏休みにSNSにも登録して、写真を見たりしながら凄いなぁってずっと思ってたんですよ。本当に会えるなんて感激です」
自分のことをネット上で知ってくれたという人物に会い、茜音は少し恥ずかしい気がしたが、真弥は茜音に会えたことが本当に嬉しいようだ。
「今日は、どんなルートで回られるんですか?」
「そうだねぇ、今日は金閣寺の周りとぉ、後半は茜音の調査が中心になるのかな?」
明日には横須賀に戻ることにしているので、観光はなるべく早く終わらせ、茜音の時間を多くとれるようにするつもりだった。
「もし……、お邪魔じゃなかったら、一緒に行ってもいいですか……?」
「真弥、迷惑になっちゃうわよ それに伸吾くんはどうするの?」
美弥が指さしたのを見て、茜音と菜都実は、伸吾が歩行に杖の補助が必要なのだと瞬時に理解した。
「どうする茜音?」
突然の真弥の申し出に、少し考えていた茜音だが、
「いいよ。でも、他に見たいところがあるなら、そっちを優先してね。面白いものじゃないし、それに道の悪いところも行くから、絶対に無理しないでね。伸吾くんはどうしたい?」
「俺は……、もし邪魔でなければ一緒に行ってもいいですか? 葉月がずっとこのことをいつも話してくれていたんで……」
「茜音、大丈夫? あたしもついていこうか?」
菜都実が心配そうに聞きてくる。茜音の現地調査は興味本位で行けるものではないことを知ってのことだから。
「ううん大丈夫。そういう場所に行くときは、きっと真弥ちゃんも安全なところにいてもらおうと思うから」
「そっか……」
もともと茜音は菜都実とは別行動にすることを考えていた。一人で行くことを考えれば、一緒に来てくれる人がいるのは心強いが、場所や状況が通常の観光とは全く違うだけに、せっかくの機会を自分のためだけの時間にしては申し訳ない。
「大丈夫です。もしそれまでに少しでも体調がおかしくなったりしたら行きません」
「分かった。じゃぁ一緒に行こう」
「はい!」
五人は朝食をそこで切り上げ、1時間後にホテルのロビーに集合することにして分かれた。
「まさかなぁ、こういう展開になるとは思ってなかったわ」
「そうだねぇ。でもいいんじゃないかなぁ。菜都実はその時間ゆっくり観光しておいでよ。昨日の修学旅行の続きだから」
茜音はそう告げながら、親友の肩を優しくたたいた。