【茜音・高校1年・春】
そもそも、茜音と佳織、菜都実が三人チームを作ったのは、高校1年生の入学式の日にまでもう少し時間を巻き戻す必要がある。
「今日は入学式とオリエンテーションだけっしょ? 面倒だなぁ」
「なに初日から言ってるの。最初が肝心」
「しょうがないなぁ。それにしてもなんでこんな坂の上に学校作ったかなぁ?」
真新しい制服に身を包んだ佳織と菜都実が、学校に続く坂を上っていく。
「これはいくら菜都実でも寝坊してダッシュって訳にはいかないんじゃない?」
「うぅ、くそぉ。佳織、起こしに来てくれぇ」
「えぇ? だって菜都実の家、うちからだと途中から寄り道になっちゃうもん!」
そんなことを言っているうちに、坂の頂上にある高校の門をくぐった。
「まだそんなに集まってないなぁ」
「あ、ほら菜都実、やっぱりあの子いるよ」
「うわ、やっぱりここに入学決めたんだ」
櫻峰高校の入学式の当日。
上村菜都実と近藤佳織の二人は、校庭の一角に貼り出されているクラス分けの表の前に向かうとき、その少女を見つけた。
「どうなんだろ、同じクラスなのかな」
「だといいね。面白そうだし」
「ていうか、佳織の世話焼き癖が出ただけなんじゃないの?」
「べ、別にそんなんじゃないけど……」
「だってさぁ。発表のときからあんなことやってちゃねぇ……」
佳織も苦笑しながら、自分たちも発表の掲示板に足を進めた。
その事件とは、菜都実と佳織がこの櫻峰高校の合格者発表を見に来た時のことだ。
「はうぅ……」
自分たちの受験番号が掲示板にあるのを確認し、帰ろうと思ったときだった。
「ん?」
すぐ隣から落ち込んだ声が聞こえる。
二人が目をやると、市内の私立中学の制服を着た少女が、がっくりした様子で掲示板を見ていた。
この櫻峰高校は決して簡単に入れる学校ではなく、倍率も周辺平均からすれば高い。そもそも内申点をそれなりに取っていなければ受験すらさせてもらえないという学校だから、受験しているだけでもそれなりの頭の持ち主ということだ。
しかし、佳織はその少女に声をかけずにその場を立ち去ることができなかった。
「あ、あのぉ……」
「ほえぇ?」
本当に同い年の子なのだろうか。その容姿ともリンクしているどことなく幼い感じの残る声が返ってくる。
「大丈夫ですか……?」
「ご、ごめんなさいですぅ。番号なかったからからこれからどうしようかなぁって思って……」
どうやら普通に話せばちゃんと話が通じるようだ。
「ここは補欠とか条件付きだから無いと思うよ。あっちが正規合格だから」
「ほぇ?」
狐につままれたような顔をしている彼女を、佳織は別の掲示板の前に手を引いて連れて行った。
「ほら、あそこにあるの、あなたの番号じゃない?」
ようやく状況を飲み込んだのか、少女はもう一度自分の受験票を確認する。
「ね? あるでしょ?」
「ほ、ほんとだぁ。あったよぉ、あったよぉ……」
さっきまでの沈んだ顔は消え、無邪気に喜んでいる彼女を見ると、他人事ではあるのに二人ともなぜか自分のことのように嬉しくなった。
「よかったね」
「はいぃ。ありがとうございますぅ」
情報をくれた佳織だけでなく、菜都実にもきちんと頭を下げて礼を言い、手続きのカウンターの方へ歩いていった。
「よかった…」
「まぁ、それでも今日書類をもらわなかった場合は送られてくるんだからなぁ。でも、なんかウルウルしてたぞ?」
「今時珍しいくらいかもね。なんか可愛い子だったなぁ」
佳織は彼女が去っていった方を見たが、すでに人混みに紛れてしまってその姿を探すことはできなかった。
そもそも、茜音と佳織、菜都実が三人チームを作ったのは、高校1年生の入学式の日にまでもう少し時間を巻き戻す必要がある。
「今日は入学式とオリエンテーションだけっしょ? 面倒だなぁ」
「なに初日から言ってるの。最初が肝心」
「しょうがないなぁ。それにしてもなんでこんな坂の上に学校作ったかなぁ?」
真新しい制服に身を包んだ佳織と菜都実が、学校に続く坂を上っていく。
「これはいくら菜都実でも寝坊してダッシュって訳にはいかないんじゃない?」
「うぅ、くそぉ。佳織、起こしに来てくれぇ」
「えぇ? だって菜都実の家、うちからだと途中から寄り道になっちゃうもん!」
そんなことを言っているうちに、坂の頂上にある高校の門をくぐった。
「まだそんなに集まってないなぁ」
「あ、ほら菜都実、やっぱりあの子いるよ」
「うわ、やっぱりここに入学決めたんだ」
櫻峰高校の入学式の当日。
上村菜都実と近藤佳織の二人は、校庭の一角に貼り出されているクラス分けの表の前に向かうとき、その少女を見つけた。
「どうなんだろ、同じクラスなのかな」
「だといいね。面白そうだし」
「ていうか、佳織の世話焼き癖が出ただけなんじゃないの?」
「べ、別にそんなんじゃないけど……」
「だってさぁ。発表のときからあんなことやってちゃねぇ……」
佳織も苦笑しながら、自分たちも発表の掲示板に足を進めた。
その事件とは、菜都実と佳織がこの櫻峰高校の合格者発表を見に来た時のことだ。
「はうぅ……」
自分たちの受験番号が掲示板にあるのを確認し、帰ろうと思ったときだった。
「ん?」
すぐ隣から落ち込んだ声が聞こえる。
二人が目をやると、市内の私立中学の制服を着た少女が、がっくりした様子で掲示板を見ていた。
この櫻峰高校は決して簡単に入れる学校ではなく、倍率も周辺平均からすれば高い。そもそも内申点をそれなりに取っていなければ受験すらさせてもらえないという学校だから、受験しているだけでもそれなりの頭の持ち主ということだ。
しかし、佳織はその少女に声をかけずにその場を立ち去ることができなかった。
「あ、あのぉ……」
「ほえぇ?」
本当に同い年の子なのだろうか。その容姿ともリンクしているどことなく幼い感じの残る声が返ってくる。
「大丈夫ですか……?」
「ご、ごめんなさいですぅ。番号なかったからからこれからどうしようかなぁって思って……」
どうやら普通に話せばちゃんと話が通じるようだ。
「ここは補欠とか条件付きだから無いと思うよ。あっちが正規合格だから」
「ほぇ?」
狐につままれたような顔をしている彼女を、佳織は別の掲示板の前に手を引いて連れて行った。
「ほら、あそこにあるの、あなたの番号じゃない?」
ようやく状況を飲み込んだのか、少女はもう一度自分の受験票を確認する。
「ね? あるでしょ?」
「ほ、ほんとだぁ。あったよぉ、あったよぉ……」
さっきまでの沈んだ顔は消え、無邪気に喜んでいる彼女を見ると、他人事ではあるのに二人ともなぜか自分のことのように嬉しくなった。
「よかったね」
「はいぃ。ありがとうございますぅ」
情報をくれた佳織だけでなく、菜都実にもきちんと頭を下げて礼を言い、手続きのカウンターの方へ歩いていった。
「よかった…」
「まぁ、それでも今日書類をもらわなかった場合は送られてくるんだからなぁ。でも、なんかウルウルしてたぞ?」
「今時珍しいくらいかもね。なんか可愛い子だったなぁ」
佳織は彼女が去っていった方を見たが、すでに人混みに紛れてしまってその姿を探すことはできなかった。