柳の木から、僅か十歩程の距離を取り、私を制止するように、志築が、左手を広げてると、柳の木の前で足を止めた。

私は一呼吸して気持ちを切り替え、目の前の狩りに集中する。

「冴衣」

名を呼ばれたのが合図。手袋を外し、両の手の人差し指と親指で三角形をかたどり、手印(しゅいん)で結界を張る。

結界の中は、外からは異質なモノが見えなくなると同時に、影狩師の霊力の底上げを可能とする。  

「おい、出てこいよ」

低く無機質な声色で、志築が、柳の木の影の人物に声を掛ける。

ユラユラと木の影に隠れるように潜んでいたソレは、ゆっくりと柳の木の前へと姿を現した。  

真っ白な単の着物に真っ赤な口紅、着物の裾からでた真っ白の両足は、裸足だった。背中まである漆黒の長い髪は、まるで柳そのもののようだった。 

女の顔のほとんどに髪が、かかり表情はわからない。髪の間から大きく開かれた口元が見え、黄色い歯列が、カタカタと揺れる。

「影狩師か。まだ若いな」

揶揄うような嘲笑を浮かべながら、女は、手で前髪を払うと、血走った眼で突き刺すような視線を志築に向けた。

「狩りに歳、関係ねぇよ」

ニヤリと志築は、唇を持ち上げる。 

「私を狩れるかしら。ねぇ、子供たち」

柳の影から小さな影が二つ現れ、こちらを覗き込む。 

「むりだよ」
「むりだよ」

こだまするように同じ言葉を繰り返す、小さな二つの影。