真也が礼を言い、冴月のほうを見ると彼女は軽くうなずいてみせた。真也も首肯する。
「まず、確認したいことがあります」
男の問いに真也は首を傾げる。
「なんですか?」
すると彼は眉根を寄せて真也の目を覗き込んできた。
「君は、日本人ですね?」
「え?」
質問の意図がわからず、真也は困惑の声を上げる。
冴月が何か言おうとするのを遮るように、真也は口を開く。
しかし真也が何かを言うより先に、 冴月さんは黙っていてくれ。
と、彼は小声で言った。冴月は不満げな表情を浮かべたが、何も言わずに口を閉じた。
真也は男の目を見つめ返しながら答える。
それは……はい。僕は日本生まれです。
と。
男は目を大きく見開いたあと、何度か瞬きをして、口角を僅かに上げる。
「なんですって?」
「……え? あの、僕……何かおかしいことを言いましたか……?」
真也は、冴月と視線を合わせる。彼女は目を伏せてしまった。そして小さくため息をつくと
「ごめんなさい、ちょっと待ってくれるかな」
そう言って、冴月は自分の手元にあったタブレットを操作し始めた。どうやら、今のやりとりを翻訳して、画面上で表示しているようだった。冴月は少しの間タブレットを眺めると、顔をしかめて真也に向き直る。真也は首を傾げた。
冴月は英語で、男に話し掛ける。
「ミスター、どういうことですか?」
しかし、彼は真也の問いかけを無視して立ち上がり、窓際に歩いて行った。
真也はその行動に疑問を持ちながらも、冴月に通訳を求めた。
冴月はそれを断り、もう一度英語で彼に話しかける。しかし、男は無視し、そのまま部屋から出て行ってしまった。
真也は呆然とする。いったいなぜなのか分からなかった。冴月の顔色を伺うが、彼女は首を傾げた。
彼女は英語ができる。だから、英語を使って会話すればいいと思ったのだが……。
「ああ、なに、気にしないで」
冴月はそう言うと、困ったように笑って真也に言った。
「とりあえず、さっきの人は、英語があまり得意じゃないみたい」
「あ、そうなの……」
「うん。それでね、彼は日本語がわかるみたいなんだけど、発音がうまくできないから聞き取れなかったのね」
「あー……そうか……僕の英語は変だってことなんだね」
「まあ、そういうことね」
冴月は、肩をすくめる。
「でもね、心配はいらないわ。私達なら、ちゃんとコミュニケーションが取れるから」
「そっか……ありがとう」
冴月の優しさに真也は感謝した。この世界に放り込まれて初めて会った人間だ。優しくないはずがない。
冴月は、
「じゃあ、早速だけど始めましょうか」
と、言って真也を立たせる。真也もそれに従って立ち上がった。
それから数分、真也は冴月に習いながら、翻訳の仕事を始めた。
最初はぎこちなかったが、徐々に要領を得ていき、次第に作業効率を上げていった。冴月がサポートしてくれたおかげでもある。
翻訳作業は単純だが、なかなか神経を使うものだった。誤字脱字は論外であり、専門用語も多く含まれるため、それらへの注意が欠かせなかった。真也は、今まで自分がしてきた勉強の成果を実感していた。
しばらく作業をすると、真也が仕事に慣れてきたのを見て冴月が立ち上がる。そしてコーヒーを入れて戻ってきた。
真也が thank you と冴月に言うと、冴月は微笑んでカップを渡した。
冴月は席に着くと、パソコンの電源を入れた。そして真也に尋ねる。今日はこれくらいにしておこうか。
「まず、確認したいことがあります」
男の問いに真也は首を傾げる。
「なんですか?」
すると彼は眉根を寄せて真也の目を覗き込んできた。
「君は、日本人ですね?」
「え?」
質問の意図がわからず、真也は困惑の声を上げる。
冴月が何か言おうとするのを遮るように、真也は口を開く。
しかし真也が何かを言うより先に、 冴月さんは黙っていてくれ。
と、彼は小声で言った。冴月は不満げな表情を浮かべたが、何も言わずに口を閉じた。
真也は男の目を見つめ返しながら答える。
それは……はい。僕は日本生まれです。
と。
男は目を大きく見開いたあと、何度か瞬きをして、口角を僅かに上げる。
「なんですって?」
「……え? あの、僕……何かおかしいことを言いましたか……?」
真也は、冴月と視線を合わせる。彼女は目を伏せてしまった。そして小さくため息をつくと
「ごめんなさい、ちょっと待ってくれるかな」
そう言って、冴月は自分の手元にあったタブレットを操作し始めた。どうやら、今のやりとりを翻訳して、画面上で表示しているようだった。冴月は少しの間タブレットを眺めると、顔をしかめて真也に向き直る。真也は首を傾げた。
冴月は英語で、男に話し掛ける。
「ミスター、どういうことですか?」
しかし、彼は真也の問いかけを無視して立ち上がり、窓際に歩いて行った。
真也はその行動に疑問を持ちながらも、冴月に通訳を求めた。
冴月はそれを断り、もう一度英語で彼に話しかける。しかし、男は無視し、そのまま部屋から出て行ってしまった。
真也は呆然とする。いったいなぜなのか分からなかった。冴月の顔色を伺うが、彼女は首を傾げた。
彼女は英語ができる。だから、英語を使って会話すればいいと思ったのだが……。
「ああ、なに、気にしないで」
冴月はそう言うと、困ったように笑って真也に言った。
「とりあえず、さっきの人は、英語があまり得意じゃないみたい」
「あ、そうなの……」
「うん。それでね、彼は日本語がわかるみたいなんだけど、発音がうまくできないから聞き取れなかったのね」
「あー……そうか……僕の英語は変だってことなんだね」
「まあ、そういうことね」
冴月は、肩をすくめる。
「でもね、心配はいらないわ。私達なら、ちゃんとコミュニケーションが取れるから」
「そっか……ありがとう」
冴月の優しさに真也は感謝した。この世界に放り込まれて初めて会った人間だ。優しくないはずがない。
冴月は、
「じゃあ、早速だけど始めましょうか」
と、言って真也を立たせる。真也もそれに従って立ち上がった。
それから数分、真也は冴月に習いながら、翻訳の仕事を始めた。
最初はぎこちなかったが、徐々に要領を得ていき、次第に作業効率を上げていった。冴月がサポートしてくれたおかげでもある。
翻訳作業は単純だが、なかなか神経を使うものだった。誤字脱字は論外であり、専門用語も多く含まれるため、それらへの注意が欠かせなかった。真也は、今まで自分がしてきた勉強の成果を実感していた。
しばらく作業をすると、真也が仕事に慣れてきたのを見て冴月が立ち上がる。そしてコーヒーを入れて戻ってきた。
真也が thank you と冴月に言うと、冴月は微笑んでカップを渡した。
冴月は席に着くと、パソコンの電源を入れた。そして真也に尋ねる。今日はこれくらいにしておこうか。