いつもなら嬉しいはずの誘いなのに今日は嬉しくない。真也は何かあるのではないかと思いながらも一緒に帰ることに了承した。帰り道では特に変わったこともなく、いつものように神社の前を通った。すると黒猫がよぎった。神社にはカラス避けネットがかけられているはずなのだが……。その時だった。突然美奈代の表情が変わった。目を大きく見開き、口元を押さえて震え出したのだ。何事かと思って振り返るとそこには……、 白いワンピースを着た女の子がいた。長い髪の少女だ。年齢は10歳前後くらいだろうか、とても可愛い顔立ちをしていた。ただ……目が死んでいた。少女は無言のまま、手に持っていたナイフで襲いかかってきた。真也は必死に逃げようとするも腰を抜かしてしまっていた。恐怖で悲鳴を上げることもできない。少女の手は真っ直ぐ自分の心臓に向かっている。もう駄目だと諦めかけたとき……黒い影が現れて少女を抱き止めた。よく見るとそれは猫だった。そして少女が動かなくなった瞬間……目の前が暗くなった。
*
***
真也は目を覚ました。夢を見たのだ。そして思った、これがあの夢の続きなのだと。辺りを見るとそこは病室だった。自分がベッドに横になっていることを確認して起き上がろうとすると体中から激痛が走った。どうやら怪我をしているようだった。痛みを堪えながら記憶を整理していく。
(確か僕は通り魔に襲われて刺されて……)
その後、気を失ったのだろうと思い至ったところで扉が開いた。
入ってきたのは美奈代だった。なぜか泣いていたらしく頬に涙の跡があった。真也が声をかけようとした時に看護師が入ってきた。
私はお邪魔のようだね〜と言って出て行った。「ナイジェリアは三億人の人口で長い間イギリス領だったために、英語を話す者も多く、英語公用語圏となっていますが、首都ブアリチでは現地語が使われていますし、北部地方にあるニジェール・コンゴ共和国やガーイッシュなどの国でも英語はあまり通じません。ですがこの国の人は総じて明るく前向きで優しい性格をしています。ナイジェリア人はとても親切でフレンドリーな国民性なので、外国人である私達が戸惑うような事態に陥ることはないでしょう』
「ふーん」
真也はスマホで検索しながら、助手席に座る冴月晶の説明を聞いていた。彼女は今、後部座席に座っており、
「ふん」
とか
「ほぅ」
など、合いの手を入れていた。ちなみに運転手は冴羽遼だ。彼は昨日と同じ黒いスーツを着ていた。だがその胸ポケットからは青いハンカチーフが見えていて、まるでマフィアの構成員のようである。
「まあ、そんなわけで、まずはこの国に溶け込むところから始めましょう」
「……うん?」
「さすがに日本語だけじゃ不便だからね。現地語を覚えたほうが便利だよ」
そう言い、冴月晶はスマホを見せてくる。その画面にはナイジェリア語の会話例が載っていた。
冴月さんが教えてくれるってこと? 冴月さんが?……冴月さんに習ってる俺ってなんかカッコ悪くないか? などと真也は考えるが、しかし実際、冴月に教わる以外の方法はないのである。
真也の通う東異研にこの国の出身者はいないのだ。
そもそもこの異世界に真也が放り込まれた理由は不明だったが、真也が異世界から来たことは周知の事実であり、ならばこの世界の人間が知らない知識を持っている可能性が高い、ということで真也は拉致同然に連れてこられたのである。
真也は誘拐されそうになっていたところを助けた恩があるとはいえ、なぜ自分が選ばれたのか不思議だった。
しかし冴月には別の目的があったらしい。
*
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真也は目を覚ました。夢を見たのだ。そして思った、これがあの夢の続きなのだと。辺りを見るとそこは病室だった。自分がベッドに横になっていることを確認して起き上がろうとすると体中から激痛が走った。どうやら怪我をしているようだった。痛みを堪えながら記憶を整理していく。
(確か僕は通り魔に襲われて刺されて……)
その後、気を失ったのだろうと思い至ったところで扉が開いた。
入ってきたのは美奈代だった。なぜか泣いていたらしく頬に涙の跡があった。真也が声をかけようとした時に看護師が入ってきた。
私はお邪魔のようだね〜と言って出て行った。「ナイジェリアは三億人の人口で長い間イギリス領だったために、英語を話す者も多く、英語公用語圏となっていますが、首都ブアリチでは現地語が使われていますし、北部地方にあるニジェール・コンゴ共和国やガーイッシュなどの国でも英語はあまり通じません。ですがこの国の人は総じて明るく前向きで優しい性格をしています。ナイジェリア人はとても親切でフレンドリーな国民性なので、外国人である私達が戸惑うような事態に陥ることはないでしょう』
「ふーん」
真也はスマホで検索しながら、助手席に座る冴月晶の説明を聞いていた。彼女は今、後部座席に座っており、
「ふん」
とか
「ほぅ」
など、合いの手を入れていた。ちなみに運転手は冴羽遼だ。彼は昨日と同じ黒いスーツを着ていた。だがその胸ポケットからは青いハンカチーフが見えていて、まるでマフィアの構成員のようである。
「まあ、そんなわけで、まずはこの国に溶け込むところから始めましょう」
「……うん?」
「さすがに日本語だけじゃ不便だからね。現地語を覚えたほうが便利だよ」
そう言い、冴月晶はスマホを見せてくる。その画面にはナイジェリア語の会話例が載っていた。
冴月さんが教えてくれるってこと? 冴月さんが?……冴月さんに習ってる俺ってなんかカッコ悪くないか? などと真也は考えるが、しかし実際、冴月に教わる以外の方法はないのである。
真也の通う東異研にこの国の出身者はいないのだ。
そもそもこの異世界に真也が放り込まれた理由は不明だったが、真也が異世界から来たことは周知の事実であり、ならばこの世界の人間が知らない知識を持っている可能性が高い、ということで真也は拉致同然に連れてこられたのである。
真也は誘拐されそうになっていたところを助けた恩があるとはいえ、なぜ自分が選ばれたのか不思議だった。
しかし冴月には別の目的があったらしい。