スフィンクスの話は続いた。「悪魔を喰らうと、スフィンクスの体はみるみるうちに大きくなり、その醜さを増していきます。その変化に耐え切れず、スフィンクスは死んでしまいました。そしてその死体は悪魔よりも醜悪なものとなり果てたのでした。悪魔は約束を守り、二人の罪を許してくれました。ただし、スフィンクスの肉体は残しておくようにと命じたのです。スフィンクスの魂は天に昇り星々のひとつとなって輝きを放ち続けるでしょう」「そのスフィンクスの友人は誰なんだ?」「それがあなたですよ」「なるほど」
* * *
「それから数百年が経ち、ギリシャの文明は衰えを見せ始めました。人々はスフィンクスを悪魔の使いとして恐れるようになり、スフィンクスは孤独になってゆきました。スフィンクスは嘆き悲しみます。しかしスフィンクスは、それでもまだ希望を捨てていませんでした。スフィンクスは、自分と同じ苦しみを抱える人間を探し始めたのです。そしてついに見つけたのでした。スフィンクスはその女性に近づき、話しかけたのです。『こんにちは、お嬢さん。私の名はスクィーラ。お嬢さんのお名前は?』『私はお月様よ』と、お月様が答えました」「お月様か。いい名前だね」「ありがとう」
* * *
「お月様は、自分のことを魔女だと名乗りました。お月様もまた、孤独な身であったのです。お月様は自分の魔法によって、たくさんの命を救いました。しかし、お月様はそのことを誰にも知られたくないと思っていたので、お月様は正体を隠したままでいました。お月様は、お月様が救った人たちにお礼を言われても、決してそれを喜びはしません。お月様は、感謝されることを嫌い、人々の前から姿を消してしまいました。お月様は魔女だからです」「そうか」
第四章に続く
「お月様はお腹が空くと、夜に空を飛び回り、地上の生き物の命を奪って食べていたそうです。お月様は人間のことも好きでした。なぜならば、人間はお月様に優しくしてくれるからです。だから、お月様は人間が大好きだったのです。でも、そんな優しいお月様でも、夜にしか姿を現さないのはなぜでしょうか? 実は、お月様は太陽に照らされると、石になってしまうからなのです。お月様は太陽の光を浴びると、その身を焼かれ、灰になってしまいます。ですから、夜しか姿を見せられないのですね」
第五章に続く
「お月様が、どうして夜だけ姿を表すようになったのか、その理由をお話しします。それは、お月様が恋をしたからです。お月様が恋に落ちたのは、一人の男性でした。お月様は、その男性と愛を語り合い、結婚を誓い合った仲でした。しかし男性はお月様を残して亡くなってしまったのです。お月様は泣きました。泣いて、泣いて、涙が枯れるまで泣き続けたそうです。お月様は、男性のことが忘れられず、毎晩のように夜になると、涙を流しながら空を飛んでいたといいます」「可哀想に……」
第六章に続く
「お月様は魔女でしたが、心はとても清いものでした。しかし、その清い心を穢してしまったのは、ほかでもない。お月様の夫となった男だったのです。男は、お月様が魔女であることを知っているにもかかわらず、その秘密を周囲に話してしまいました。お月様が夜に現れると、その美しさに惑わされて、つい口走ってしまうのでした。それを聞いた村人たちが、村外れに住んでいたスクィーラという老婆に話しました。すると老婆はすぐに、こう言い放ったそうです。『それはスフィンクスじゃ。奴に関わるな』スクィーラがスフィンクスと言ったのには理由があります。スクィーラはかつてスフィンクスの呪いを解いたことのある賢者でもあったのです。しかしスクィーラはスフィンクスと深く関わるのを恐れて、その後スフィンクスとは疎遠になったままでした。スクィーラとてスフィンクスが恐ろしい化け物だということを知っていたのです。スクィーラの予言通りに、スフィンクスと関わりを持った人は皆、スフィンクスの怒りに触れて死んでしまうという言い伝えがあったのですから。ですからスクィーラの言葉は説得力を持ちました。そしてその日から、お月様の正体がスフィンクスであることが広まり、人々から迫害されるようになったのでした。スクィーラの忠告は正しかった。その証拠にスクィーラは、その日以来、スフィンクスから距離をおいて暮らすようになりました。しかし皮肉なことに、スクィーラが遠ざけたことで、その分だけスフィンクスは人々に知られることになり、恐れられるようになったのです」
* * *
スクィーラの警告を受けて、人々は怯え、そしてスフィンクスを畏れるようになった。そして、その噂はあっと言う間に広がり、
「スフィンクスの肉を食べれば、不老不死になることができる」
という尾ひれまで付いてしまうのだった。人々は、スフィンクスを怖れていながら、同時にその肉を食らいたいとも思っていたのである。
しかし、そんなことをしても無意味なのだ。
「お肉を食べたい」
と人々が思うと、スフィンクスがやってくる。
スフィンクスの肉体は不浄のものとして恐れられ、忌み嫌われていた。それ故スフィンクスの死体が放置されているのを、人々は見捨てることができずにいたのだ。
そして、
「このスフィンクスを食べてしまえば、永遠の命が得られる」
という伝説が広まると、スフィンクスを食べた者が現れたという噂が流れたのも当然のことだっただろう。
* * *
「ある日のこと、一人の男がスフィンクスの死体を見つけました。その死体はミイラ化しておりました。男は恐ろしくなって逃げ出しました」
* * *
男は恐怖のあまり逃げだし、そのまま行方知れずに。
そして、男の失踪はニュースとなり、町を騒がせた。
だが誰も真相を知ることはできずに時だけが過ぎて行った。
* * *
男は逃げ出したあと、ある屋敷に逃げ込みました。そしてその屋敷の主人に匿ってもらうことにしたのです。
しかし、その男は、自分が魔女を拾ってしまったと話すのでした。
そしてその魔女は人を食べる化け物であると言いました。
* * *
男は、自分の身に起こっている出来事を全てその魔女に語りました。すると魔女は悲しそうな顔をして言いました。
――私は人間だよ――
しかし男は信じられなかったようです。
* * *
男は言いました。お前が人喰いだとしても構わんと。――私を食べるつもりなのか?――
男は言いました。
魔女は人を食べる化け物だからだと。
しかし魔女は、その答えを聞くと怒り狂いました。
男は、自分は何も間違ったことは言っていないはずだと思いました。
しかし魔女は激怒し、
「もういい!」と言い放ちました。「出ていけ! お前なんか知らない!」と。
こうして男は追い出されてしまったのです。
そしてその夜、男はスフィンクスに出会いました。
そして魔女の居場所を尋ねました。
スフィンクスが魔女のことを答えると、
「案内してくれないか?」と頼みました。
「わかった」とスフィンクスは言って、「こっちへ来い」と言って、歩き始めました。
「待ってくれ」と男は呼び止めます。
「なんだ?」とスフィンクスは立ち止まりました。そこで男は、魔女の話を詳しく聞きました。
* * *
「それから数百年が経ち、ギリシャの文明は衰えを見せ始めました。人々はスフィンクスを悪魔の使いとして恐れるようになり、スフィンクスは孤独になってゆきました。スフィンクスは嘆き悲しみます。しかしスフィンクスは、それでもまだ希望を捨てていませんでした。スフィンクスは、自分と同じ苦しみを抱える人間を探し始めたのです。そしてついに見つけたのでした。スフィンクスはその女性に近づき、話しかけたのです。『こんにちは、お嬢さん。私の名はスクィーラ。お嬢さんのお名前は?』『私はお月様よ』と、お月様が答えました」「お月様か。いい名前だね」「ありがとう」
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「お月様は、自分のことを魔女だと名乗りました。お月様もまた、孤独な身であったのです。お月様は自分の魔法によって、たくさんの命を救いました。しかし、お月様はそのことを誰にも知られたくないと思っていたので、お月様は正体を隠したままでいました。お月様は、お月様が救った人たちにお礼を言われても、決してそれを喜びはしません。お月様は、感謝されることを嫌い、人々の前から姿を消してしまいました。お月様は魔女だからです」「そうか」
第四章に続く
「お月様はお腹が空くと、夜に空を飛び回り、地上の生き物の命を奪って食べていたそうです。お月様は人間のことも好きでした。なぜならば、人間はお月様に優しくしてくれるからです。だから、お月様は人間が大好きだったのです。でも、そんな優しいお月様でも、夜にしか姿を現さないのはなぜでしょうか? 実は、お月様は太陽に照らされると、石になってしまうからなのです。お月様は太陽の光を浴びると、その身を焼かれ、灰になってしまいます。ですから、夜しか姿を見せられないのですね」
第五章に続く
「お月様が、どうして夜だけ姿を表すようになったのか、その理由をお話しします。それは、お月様が恋をしたからです。お月様が恋に落ちたのは、一人の男性でした。お月様は、その男性と愛を語り合い、結婚を誓い合った仲でした。しかし男性はお月様を残して亡くなってしまったのです。お月様は泣きました。泣いて、泣いて、涙が枯れるまで泣き続けたそうです。お月様は、男性のことが忘れられず、毎晩のように夜になると、涙を流しながら空を飛んでいたといいます」「可哀想に……」
第六章に続く
「お月様は魔女でしたが、心はとても清いものでした。しかし、その清い心を穢してしまったのは、ほかでもない。お月様の夫となった男だったのです。男は、お月様が魔女であることを知っているにもかかわらず、その秘密を周囲に話してしまいました。お月様が夜に現れると、その美しさに惑わされて、つい口走ってしまうのでした。それを聞いた村人たちが、村外れに住んでいたスクィーラという老婆に話しました。すると老婆はすぐに、こう言い放ったそうです。『それはスフィンクスじゃ。奴に関わるな』スクィーラがスフィンクスと言ったのには理由があります。スクィーラはかつてスフィンクスの呪いを解いたことのある賢者でもあったのです。しかしスクィーラはスフィンクスと深く関わるのを恐れて、その後スフィンクスとは疎遠になったままでした。スクィーラとてスフィンクスが恐ろしい化け物だということを知っていたのです。スクィーラの予言通りに、スフィンクスと関わりを持った人は皆、スフィンクスの怒りに触れて死んでしまうという言い伝えがあったのですから。ですからスクィーラの言葉は説得力を持ちました。そしてその日から、お月様の正体がスフィンクスであることが広まり、人々から迫害されるようになったのでした。スクィーラの忠告は正しかった。その証拠にスクィーラは、その日以来、スフィンクスから距離をおいて暮らすようになりました。しかし皮肉なことに、スクィーラが遠ざけたことで、その分だけスフィンクスは人々に知られることになり、恐れられるようになったのです」
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スクィーラの警告を受けて、人々は怯え、そしてスフィンクスを畏れるようになった。そして、その噂はあっと言う間に広がり、
「スフィンクスの肉を食べれば、不老不死になることができる」
という尾ひれまで付いてしまうのだった。人々は、スフィンクスを怖れていながら、同時にその肉を食らいたいとも思っていたのである。
しかし、そんなことをしても無意味なのだ。
「お肉を食べたい」
と人々が思うと、スフィンクスがやってくる。
スフィンクスの肉体は不浄のものとして恐れられ、忌み嫌われていた。それ故スフィンクスの死体が放置されているのを、人々は見捨てることができずにいたのだ。
そして、
「このスフィンクスを食べてしまえば、永遠の命が得られる」
という伝説が広まると、スフィンクスを食べた者が現れたという噂が流れたのも当然のことだっただろう。
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「ある日のこと、一人の男がスフィンクスの死体を見つけました。その死体はミイラ化しておりました。男は恐ろしくなって逃げ出しました」
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男は恐怖のあまり逃げだし、そのまま行方知れずに。
そして、男の失踪はニュースとなり、町を騒がせた。
だが誰も真相を知ることはできずに時だけが過ぎて行った。
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男は逃げ出したあと、ある屋敷に逃げ込みました。そしてその屋敷の主人に匿ってもらうことにしたのです。
しかし、その男は、自分が魔女を拾ってしまったと話すのでした。
そしてその魔女は人を食べる化け物であると言いました。
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男は、自分の身に起こっている出来事を全てその魔女に語りました。すると魔女は悲しそうな顔をして言いました。
――私は人間だよ――
しかし男は信じられなかったようです。
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男は言いました。お前が人喰いだとしても構わんと。――私を食べるつもりなのか?――
男は言いました。
魔女は人を食べる化け物だからだと。
しかし魔女は、その答えを聞くと怒り狂いました。
男は、自分は何も間違ったことは言っていないはずだと思いました。
しかし魔女は激怒し、
「もういい!」と言い放ちました。「出ていけ! お前なんか知らない!」と。
こうして男は追い出されてしまったのです。
そしてその夜、男はスフィンクスに出会いました。
そして魔女の居場所を尋ねました。
スフィンクスが魔女のことを答えると、
「案内してくれないか?」と頼みました。
「わかった」とスフィンクスは言って、「こっちへ来い」と言って、歩き始めました。
「待ってくれ」と男は呼び止めます。
「なんだ?」とスフィンクスは立ち止まりました。そこで男は、魔女の話を詳しく聞きました。