勿忘草の青が窓辺で泣いている。そして、今日も雨が世界をつつんでいる。



雨の日、渡された勿忘草はもう枯れてしまっている。隣で笑い泣いた彼は、もうここにはいない。


部屋に散りばめられた青の雑貨も。


彼の描いた壮大な蒼天の絵も。


ブルーと名づけた飼い猫も。


この部屋にあるのに、彼だけがいない。



テレビから流れる天気予報。晴れの時は落ち込み、雨の時はお気に入りの青い傘を持って、お出かけしようと二人雨の街に繰り出して。


カフェで紅茶だけふたつ頼み、何気ない日常の物語を交わす。明日の夕食はことこと煮込んだ星の人参と鶏肉の蜂蜜クリームシチューにしようとか、新しく迎えた観葉植物の名前を何にしようとか。



淡く優しい時間はすぐ解けていく。




「今度ブルーを連れてピクニックへいこう」




それが最後に交わした約束。



破られたことのない約束だったから、鮮明に今も描くあの日の情景。



雨ばかり最近よく降る。


雨はいつ止むのだろう。




彼は特別な日にいつも私に勿忘草を渡す。決まってその日は、いつも雨。



無言のまま渡された勿忘草。もうすっかり枯れてしまった花を、今も私は捨てられないでいる。


彼がよく聞かせてくれた花言葉も、今では記憶の遥か彼方。忘れられない幸せの幻の中で、今日も抜け出せない。