「お待たせ」



私が駅前のベンチに座っていると、スーツを着た駿さんが小走りでやってきた。


待っていないよ。

そう言うように、私は首を横に振る。



「どこか温かいところ、入る?」

「ううん。話はすぐ終わるから、ここでいいよ」



大好きな駿さんに会えたというのに、私の心は弾まなかった。

弾むことのないように。

落ちることのないように。

揺らぐことのないように。

私は自分の心を見つめ続けた。

いつもと違う私に、戸惑った様子の駿さん。



「話ってなに?」



その声は、やっぱり柔らかくて、でもどこか切なく感じた。

私は自分の意思を見失う前に、駿さんの目をまっすぐに見る。



「駿さんと会うのは、これで終わりにする。……今までありがとう」

「……」

「彼女さんを幸せにしてあげてね。って、私が言える立場じゃないけど」



私は苦笑する。

本当に、私が言える立場じゃない。

駿さんの彼女さんを傷つけていたひとりなんだから。