「分かった。気を付けてね」



そう言ってお母さんは立ち上がり、クローゼットから淡い水色のマフラーを取り出した。



「寒いから……」



マフラーを私の首に巻いてくれるお母さん。

微かにお母さんのにおいがして、抱きしめられているような感覚になった。



「いってらっしゃい」

「……いってきます」



私は靴を履いて、玄関を出た。

久しぶりに『いってきます』って言ったな……。

そんなことを思いながら道路の曲がり角まで歩き、ふと後ろを振り返った。


……お母さん。


こんなに寒いのに、お母さんは家の前に立っていた。

私が振り返ったことに気づくと、大きく手を振ってくれる。

変わらない、お母さんの愛だ。


小学生の頃も、中学生頃も、高校生になっても、変わらずこの曲がり角で姿が見えなくなるまで手を振ってくれるお母さん。

そんなお母さんに、私も手を振り返す。


一歩ずつ、私は地面を踏む。

ゆっくりだけど、力強く。

私は後悔のないように歩くんだ。