「そうなんだぁ。婚約しているなら同棲とかしないの?」

「彼女、県外に住んでいるからさ」

「簡単に会えないじゃん。寂しくないの?」



私も黙ればいいのに。

彼女さんついて聞く必要はないのに。

だけど、駿さんが彼女さんの話をするたび、優しそうな顔をするから聞いてしまうんだ。



「寂しいけど、3月下旬には俺、引っ越すから」

「引っ越す……? って、どこに?」

「もちろん、彼女のとこだよ。仕事も変えて、彼女と一緒に暮らすんだ」

「そ、っか」



……聞かなきゃよかった。

でも、聞いてよかった。

駿さんとはもう、会えなくなるんだ……。


指先が冷たくなっていくのが分かった。

仕事を変えていいって思うくらい、この土地を離れてもいいって思うくらい、彼女さんのことを愛しているんだね……。

私も、駿さんのこと大好きなんだけどな……。