「駿さんっ」



私は花柄ピンク色の膝丈ワンピースを着て、駅前の待ち合わせ場所で駿さんを見つけた。



「朱里ちゃん、おはよう。なんだか前と雰囲気が違うね」

「お気に入りの服なの」

「こっちのワンピースも似合うね。可愛いよ」



駿さんは前回と変わらない、穏やかな瞳で私を見つめた。


ワンピースが似合うって褒めてもらえたことが嬉しい。

可愛いって言ってもらえたことが嬉しい。

それだけで、無条件にテンションが上がってしまった私。


……駿さんには婚約者がいるのに。


背徳感。

そんな言葉が脳裏をよぎる。

本当は婚約者がいる駿さんと会ってはいけない。

駿さんが『可愛い』って言うべき相手は本来、本命の彼女さんに言うべきなのに。


その感情の反面、“優越感”という感情も私の心の中にあった。

彼女さんが知らない駿さん。


今、駿さんが誰とどこで会っているのか、あなたは知っている?

駿さんはあなたと婚約しているのに、私という女と手を繋いでいるんだよ?

キスもしたんだよ?


……ほら。

私が寂しそうに腕を絡ませれば、駿さんは抱きしめてくれる。


今だけ、駿さんは私のもの。