自分に言い聞かせてなんとか平静を保つ。俺は今、女。彼女の同伴がいなくなったからその代わりをやるだけなんだ。

「でもこの旅の目的って何なんだ?」

 あくまでいつもどおりの口調で話す。俺は俺として生きていくのをやめたわけじゃない。女としてなんて生きてやらないからな?

「学校に入学することです」

 シャルロットは前を向いて歩きながら俺の問いに答える。にゅ、入学…?入試みたいなもんを受けに行くってことか?

「それってもしかして自分も…」

 恐る恐る尋ねると、シャルロットは首を振って微笑んだ。足を止めてこちらを振り返る。白銀の髪の毛が陽の光に当たって、星の粉を振りまいた糸のようだった。

「アーリャは一緒に受ける予定でしたが…。ロベリアが無理する必要はありません。私一人で戦います」

 た、戦う…?普通の入試では使わない言葉なんだが…?いや、普通の世界ではないような気がしてたけども。服装とか、名前とか、世界観とか。

「戦うってどういう…」

 俺が尋ねると、シャルロットが首を傾げる。心底不思議なものを見ているような顔だ。いや、俺がその顔をしたいんだが。

「知りませんか?真珠星(スピカ)が輝いた次の朝、開催されるファルヴィリッツ学園の入学を駆けた戦いを―」

 そんな入学聞いたことねぇよ。いや、学力とか愛想の良さとか戦って、落とされたり受からされたりするけど…。シャルロットが言ってるのは絶対そういう戦いじゃねぇよな。

「通常は2人一組で戦うのですが…。例外に自ら申し出れば一人でも戦えると聞いたことがあります。心配はありません」

 いや、こんな華奢な少女が一人で戦う?女学校でもなけりゃ、男と戦う気か…?絶対、無理だろ…。

「心配は無用ですよ?」

 彼女は長い髪の毛を耳にかけながら目を細めて笑う。いや、世間的に確実に男に守られるべき存在だろあんた。ていうか、男に守りたいと思わせる存在だろうが。

「で、でも…」

 俺が言いよどむと、彼女は俺の手を掴む。…!!さっきは回避したのに、隙を突かれてしまった。自分の心音が上がっていくのがわかって気持ち悪いから嫌だったのに。

「あなたがお思いになっているより、私は強いと思います。ロベリアはどうぞ、無関係の戦いなど気にせず少しの間見知らぬ女と旅をしているとでも思ってください」

 そういう彼女の目は本気のようだった。本当に…?彼女は一人でそんな戦いを勝ち抜いていけるほど強いのか…?