絶句している俺(私…?)の顔を心配そうに覗き込む老紳士と美女。地獄って性別変わったりするんだろうか…。

「大丈夫ですか?」

透き通った声音が俺(もうそのままでいいや)を心配する。大丈夫…では、絶対にないだろ…。

「いや、あの…」

ドギマギする。うわ、声も女だ…。俺って、まじで女になっちゃったわけ…?受け入れ難い…。

俺はとりあえず老紳士に手鏡を返した。でも、明らかに知らない土地でどうやって過ごすか…。またどうにかして死んでもいいけど。

「しかし、アーリャ様じゃないとすると…シャルロット様の出発はいつになるやら…」

出発…?そのアーリャってやつとどっかに行く予定でもあったのか?まぁ、俺の知ったことじゃないけど。

「仕方ありません。私、1人で出発します。これ以上、出発を遅らせる訳にはいきませんから」

そう言って、彼女は俺の顔を真っ直ぐに見る。俺はドギマギしながらも彼女から目を離さずにいた。

「お時間を割かせてしまい、すみませんでした。ですが、今はお詫びをする時間すらありません」

彼女は悠然とした態度で頭を下げた。いや、頭下げられるようなこと何も無いだろ…。

「いや、それよりもあんた、1人で行くの?」

女子にしては荒い口調になってしまったけれど、俺は別に女として生きて行こうとは思ってないし。

男に誇り持ってたわけじゃないけど、なんか色々面倒くさそうだ。ていうか、これからのここでの人生も早く終わらせたい。

「…?はい」

彼女が不思議そうに頷いた。そうだ、俺は無関係なはずなのに何を気にしてるんだ。こういう面倒事には極力関わらないのが得策だ。

なのに、放っておけないと思ってしまうのはなんでだろう。彼女が美しいからか…?自殺したやつが今更出会った女が綺麗だとかそんなことを考えてる時点で笑ってしまうけれど。

「シャルロット様!やはり私が一緒に…!」

老紳士の叫びを彼女は手で制した。その長くて綺麗な指先まで動きが優美で、目を奪われる。

「ダメですよ、奥様に帰ると手紙を出したのでしょう?」

どうやら老紳士は彼女に仕えていた間、会えていなかったらしい家族の元へ帰るらしい。

彼女に止められてなお、食い下がろうとする老紳士に彼女は首を振り続ける。このままじゃ、らちがあかないぞ。

そう、今からする行動は目の前の不毛なやり取りを終わらせるためであって。決して俺の人間性が変わったとかそういうのでは無い。