「あーあ、これで終わりか…」

俺は、こうして命を終わらせた。ものすごい轟音が耳をつんざく。その瞬間、俺の体は宙に投げ飛ばされる。この勢いで飛んで、落下すれば間違いなく―。

悲鳴が聞こえる。全力で止まろうと試みる電車と線路が擦れ合う音が聞こえる。そうだ、俺の死によってみんな困ればいい。さようなら、この世界。

☆ ☆ ☆

目を開けると―。ん?死んだはずなのに、なんで目を開けられるんだ…?戸惑いながら周りを見回す。

もしかして、地獄ってやつだろうか。それならたまったものじゃない。生きることから解放されたくて死んだのに。死後の世界があるなんて、自殺志願者への冒涜だ。

でも、草は生えてるし、木は生えてるし、風も吹いてて、鳥も呑気に鳴いてて。とてもじゃないけど地獄には見えない…。

ていうか、死んでからも自我があるなんて本当に最悪だ。無になれると思ってたのに…。

「あ、探しておりましたよ!アーリャ様!!」

こちらに向かって老紳士っぽい人が走ってくる。俺は後ろを振り向いて、周りの人を確認する。だがしかし、周辺には人っ子1人いなかった。いや、なんでだよ…。

じゃあ、さっきは俺のこと呼んでたってことか…?なんて言ってたっけ…。あ…、あー…、あ、アーリャだ。

アーリャ…?なんじゃその、浮世離れした名前は。今流行りのキラキラネームか?そんなやつと間違えられるなんて地獄でもついてない…。

「ささ、参りましょう!」

老紳士が俺の手を掴む。そして、どこかへ走り連れて行こうとする。いやいや、俺、行く気ないって!

「あ、あの、ちょっと…!」

俺は、老紳士を止めるため声を出した。だが、彼は止まってくれる様子は無い。何をこんなに急いでるんだ、この人。

「急ぎませんと!シャルロット様がお待ちですよ!」

シャルロット…?また分からない名前が出てきた…。もう頭痛いから放っておいてくれ。

「シャルロット様ー!アーリャ様がお着きになりました!」

老紳士が声をかけた先には、1人の少女がいた。いや、少女と女性の狭間くらいの歳か。

彼女は老紳士の声にこちらを向く。俺は、引っ張られながら走り続けた。そして、彼女と目が会った瞬間、息を飲んだ。

白銀の煌めく長髪。蒼玉(サファイア)を思わせる青い瞳。雪のように白い肌に、華奢な体躯。