僕は天沢朝陽。
 皇帝をしている。
 自分には好きな人がいる。恋をしている相手、恋乃香は最近浮かない顔をしている。
「恋乃香……?どうかしたの?」
 こう聞いてもいつも同じ答え。
「そんなことないよ。なにもない」
 なにもないの一点張り。
 僕が仕事をして、恋乃香はくつろいでいるとバンッと扉が開く音がした。
「朝陽~!……って、恋乃香ちゃんもいるじゃない」
 勢い良く走って来たのは僕の双子の妹、陽彩。
 恋乃香を見ると、とても怯えているように見えた。
「ねぇ、朝陽ってば。今度あたしの家にも遊びに来てよ~!自然がとっても綺麗なのよ?」
「その話、何度も聞いた。今は恋乃香といたいんだ」
 そう言うと陽彩は吹き出した。
「ふふっ、朝陽ってばいつからそんな風になっていたの?……あと、恋乃香ちゃん」
 僕と陽彩が恋乃香の方に振り返ると恋乃香の顔は涙で濡れていた。
「は……?恋乃香、どうした?」
 恋乃香の方に歩いて、恋乃香を優しく抱きしめた。
「うぅ……っ……なんでかわからないの。陽彩さんと朝陽が一緒にいると苦しくなるのっ」
 え……?恋乃香の言っていることって嫉妬じゃないのか?
「えっと……ごめんなさい、恋乃香ちゃん。意地悪し過ぎたわ……」
 気まずそうにしている陽彩を見て、僕に隠していることがありそうだ。
「陽彩、恋乃香に何を言った」
「えっと……朝陽って女遊びが激しいからやめたほうがいいって言ったの」
「……陽彩もからかう癖は直せ。……恋乃香、女遊びが激しいっていうのは嘘だ」
「ほ、本当っ……?あ、あと、陽彩さんって朝陽とどういう関係なの?恋人っ?」
 また泣きそうになる恋乃香を抱きしめながら言った。
「僕と陽彩は双子の兄妹なんだ」
「えっ?でも、陽彩さんの苗字って若松じゃないの?」
「あ、えっと。あたし、何年か前に結婚しているの。あたしの元の名前は天沢陽彩よ」
 恋乃香はさらに困惑している。
「お姉様は昔から言葉足らずです。誤解を招くようなことは言わないでください。呆れますわ」
 いつの間にか琴乃が部屋に入って来た。
「えぇっ!琴乃?……そうね、今回はあたしが悪いわ。ごめんなさい、恋乃香ちゃん」
「い、いえ……!」
 物凄い勢いで頭を下げる陽彩に慌てている恋乃香。
「そうだっ!今度、朝陽と一緒にあたしの家に遊びに来てくださる?」
「はい!」
 さっきまでの涙は引っ込み、笑顔に変わっている恋乃香に安堵を覚えた。