ホテルに着いてから、クラス男子全員で人狼をやるとのことで、僕もその集合に来ていた。
中は僕と石川が泊まっているような普通の部屋で、その中に二十人近くが入っていたから、かなりの密度になっている。いつになっても人狼が始まらない。みんな個々で話していて、収拾が付かない。こうなることが予想できなかったのかと思いつつ、時間が過ぎるのを待った。
「あらたー、米村がお呼びだぞ」
石川の声がどこからか聞こえて、部屋を出た。
この密な状態から出してくれた先生に今日初めてありがたみを感じる。こんなことで菅はねが刺されてる可哀想な先生。
部屋を出たすぐのところに先生がいた。ソワソワして、落ち着きがない。
「どうしたんですか?」
「これを見てくれ」
先生はスマホを僕に見せた。画面にはネットニュースの記事が映っていて――。
【USの顔が明らかに⁉︎ 関係者が明かしたその美貌を大公開‼︎】
目を疑った。大々的に書かれた文字の下に大きな唄の写真。目は黒く塗りつぶされて、隠されていたけれど、明らかに唄だった。
「いや、こんなのおかしいでしょ」
いくら見ても、目を凝らしても唄だった。誰がこんな事⋯⋯。誰が――。
「桐谷さん」
「⋯⋯私もそう思う。おそらく、文化祭の腹いせだろうな」
「先生!」
他クラスの女子が走ってきた。いつも唄と一緒にいる女子たち。
「どうした」
「唄がいません」
先生は下唇噛んで、表情をさらに険しくさせた。
「わかった。私が探しに行くから、部屋に戻ってて」
三人はその言葉を聞いて、安心したのか部屋に戻っていった。事態を知っていた僕と先生は焦りが更に増す。
「唄が行った場所わかるか?」
生徒会室――いや、
「小学校」
その言葉に一瞬だけ先生の顔に哀愁が見えた。
「⋯⋯駐車場で待ってろ」
駐車場に着いて、少しすると先生が来た。
「そこの車乗って。高速で、小学校向かうから」
「いや、え? 何でそこまで」
「早く乗って」
「は、はい」
Ⅲ
「はい、これ」
先生は赤信号で、僕に何かの鍵を渡してきた。小さな親指サイズの鍵。
「それ、唄のアクセサリーの鍵だよ」
「え、何で先生が持ってんですか」
先生はバックミラー越しに僕の顔を隠して、大きく息を吐いた。
「私が、新一の彼女だったからだよ。覚えてないか?」
「それは大学の友達じゃないんですか?」
「失礼だな、あれは私だ。その鍵は私でネックレスは新一だったんだよ。私のであれを開けられる。要はペアになってるんだ。なのに新一が死んだ時、それなかったんだぞ? 必死に探したのにないから、意味わかんなかったさ」
「何でそれを唄が持ってるんですか」
「新一が渡したんだろうな。理由なんて知らない」
すぐに高速道路に乗った。
「どれくらいかかりますか?」
「結構かかると思うから、寝ててもいいよ」
「そんなこと言って逃げないでくださいよ。もういいでしょ? 話してください」
後部座席に座っているから、バックミラーを通しても、先生の目元しか見えなかった。目だけだと先生が今どんなことを思っているのかも、何もわからなかった。
苦しい沈黙が続く。今は亡き兄の恋人といるこの状況は気持ち悪い緊張感があった。今までただの教師だった米村先生が――と考えるだけで、やっぱり今まで通りというのは厳しい。
「新一が死んでから辛くて、何もできなくなって、ずっと引き篭もるようになったんだ。仕事もやめて、親の仕送りと生活保護で生活してたんだ。笑えるだろ?」
いや、全然笑えないし。何よりも驚くほどに気持ちが理解できた。
寿命とは違う形の大切な人の死は想像を絶するほどに辛い。だからそうなる気持ちが凄くわかった。現に僕もそんな風になっていた。
「でも、その何年後かな。みんなが中三の時、USの生配信を初めて見たんだ。USは新一のペンダントをかけていたんだよ。特注のあのペンダントは世界に一つしかないから、見間違うはずがなかった。そこからは早かったよ。体感は数週間だった。実際は、一年以上かかったけどね。
あのペンダントを作ってもらった鍵屋で持ち主のこと聞いたら、娘がUSと一緒の高校に通っていると言うんだ。すぐに雇ってもらえるように面接を受けた。それでキーからUSが誰かも教えてもらったんだ」
震える声と微動する吐息。先生にとっては今でもこれを打ち明けることが、怖かったんだ。それを証拠に早く言ってしまおうと、段々早口にもなっていた。
「それでいざ学校に行くと、こっちを一切見ようとしない新がいたんだよ。新に会えた喜びもあったけど、酷く暗い新に哀しくなった。だから頑張って話しかけ続けたのに、そっけないし、突き放そうとしてくるし。そのまま一ヶ月と少しが経った頃に、唄が生徒会長に立候補したいって言ってきてな。唄とは入学以来キーの紹介でちょこちょこ関わる機会があったんだ。唄は周りに気を使い過ぎてて、新は周りと関わらな過ぎててさ。全然似てないのに、似てんなって思って。二人を合わせれば、何か起こるんじゃないかって」
「僕は化学物質じゃないです」
「そんな返し前までできなかったぞ。いい反応が起きてる証拠だと思うけどな」
「先生は僕に何がして欲しかったんですか?」
「違かった。やっと分かってきた。新は新一じゃない。ずっと新が新一みたいになってくれることを願っていたし、それを目指してたんだが。根本的に違う。新は新で、新一は新一なんだよな」
はっきりじゃないけど、先生なりの答えなんだろう。
「唄に会ったらその鍵で開けてあげな。中に何が入ってるかは知らないけど、私にも見せてくれよ?」
「わかりました」
石川〉今どこにいる?
石川のLINEを見て、高速道路の看板を見た。
新〉大阪
石川〉何してんの?
新〉帰らないかも
石川〉りょーかい。戻ってきたら何があったか教えろよな
詮索しないあたりがやっぱりいいやつだと思った。
「本読むか?」
先生は窓を見る僕に言ってきた。まだ到着までは数時間あるだろう。先生は片手に小説を掲げていた。
「先生って本読むんですか?」
「読まない。これは新一からの最初の誕生日プレゼント。センスの欠片もないだろ? 嬉しかったけどな」
確かにセンスはどうかしてる。僕でももうちょっといいものを選べると思う。
「――いや、大丈夫です」
その本を見ても読みたいとは思えなかった。断った理由にそれ以外なんてない。
Ⅳ
ずっと整理がつかない。
先生とも全然話さなかったし、唄になんて言えばいいのかもわからなかった。どんどん時間は経って、あっという間に見慣れた景色になった。
「もう着きますね」
「ここら辺で降ろすから、一人で歩いていきな」
道路の脇にハザードを焚いて、先生は車を停めた。
ドアを開けた。唄にどんな顔を見せればいいのかもわからないし、不安しかない。
「困ったら笑え」
外に出た僕に先生は窓を開けて、微笑んだ。
安心したし、落ち着いた。
「ありがとうございます」
遠目からではあったけど、あの歩道に唄がいた。何をしているんだろう。唄はずっと海を見ていた。
ゆっくり歩いて近づいた。段々鮮明になっていく唄の姿。遥か先の水平線を眺めて、泣いているわけでもなかった。何かを口遊んでいる。漣の音で何も聴こえない。
「唄」
「⋯⋯やっぱり新くんは来てくれるよね」
海の方を向いている唄の声が潮風に乗って、僕に届いた。顔を見てくれない。唄はずっと海を見続けている。
「ねえ、死んでもいいかな?」
唄は真顔だった。本気なのか、冗談なのか。
「ここで終わらせるのか?」
「私は成れない。いくらやっても真似事だよ。これ以上はもう無理だよ」
唄は砂浜に向かって歩き出した。僕もそれについていく。
唄が砂浜に座ったから、僕も隣に座った。
「一緒に死のうよ」
唄はまだ一回も僕の顔を見てくれていない。視界に唄の手が入った。ギュッと砂を掴んで、すぐに指の間からその砂が漏れ出す。
「僕は死ねない。これが僕の信念だから」
「でも、怖くて私一人じゃ死ねないよ?」
「死なないでよ」
「じゃあどうすればいいの? もう無理。顔もバレて、音楽も好きにできなくなったんだよ?」
口を噤んで、下顎を震わせて、必死に何かを堪えていた。
「もう、自分がわからない。ぐちゃぐちゃなんだよ?」
喉がヒクヒクと動く。
「もういいよ。全部やめよ。USの唄も学校での唄も琴さんの前の唄も。全部やめなよ」
「何も残らないじゃん」
「僕は唄がいてくれればいいよ。僕の前で歌ってくれればいいじゃん。学校も僕だけじゃなくて、石川も一緒にさ。石川ならどんな唄も受け入れてくれるよ。優等生じゃなくていいよ。笑顔じゃなくてもいいよ。怒ってもいいよ。――泣いてもいいよ」
「僕はそのままの唄が好きだよ」
整理のつかない気持ちをそのまま口から出した。何も考えず、内容が伝わっているかなんてどうでもよくて、言いたいことを言った。身勝手で自分勝手で我儘な唄に思ったことをぶつけた。
それで、手を握った。
「キスしようよ」
「なんで?」
「なんとなく。こういう時するものでしょ? すると何かありそうじゃない?」
まだ気持ちを無理に立て直そうとしている唄を感じた。
「あのペンダントある?」
唄はポケットから出して、渡してきた。いつ見ても不恰好なペンダントで、やっぱりセンスを感じられなかった。鍵を差して、中を見る。それだけをすればいい。僕も中が気になっていた。でも――
立ち上がって、大声と一緒に海に投げた。
「⋯⋯何してんの」
今日初めて唄と目が合った。
「殺したよ」
僕は唄に強引にキスをした。
中は僕と石川が泊まっているような普通の部屋で、その中に二十人近くが入っていたから、かなりの密度になっている。いつになっても人狼が始まらない。みんな個々で話していて、収拾が付かない。こうなることが予想できなかったのかと思いつつ、時間が過ぎるのを待った。
「あらたー、米村がお呼びだぞ」
石川の声がどこからか聞こえて、部屋を出た。
この密な状態から出してくれた先生に今日初めてありがたみを感じる。こんなことで菅はねが刺されてる可哀想な先生。
部屋を出たすぐのところに先生がいた。ソワソワして、落ち着きがない。
「どうしたんですか?」
「これを見てくれ」
先生はスマホを僕に見せた。画面にはネットニュースの記事が映っていて――。
【USの顔が明らかに⁉︎ 関係者が明かしたその美貌を大公開‼︎】
目を疑った。大々的に書かれた文字の下に大きな唄の写真。目は黒く塗りつぶされて、隠されていたけれど、明らかに唄だった。
「いや、こんなのおかしいでしょ」
いくら見ても、目を凝らしても唄だった。誰がこんな事⋯⋯。誰が――。
「桐谷さん」
「⋯⋯私もそう思う。おそらく、文化祭の腹いせだろうな」
「先生!」
他クラスの女子が走ってきた。いつも唄と一緒にいる女子たち。
「どうした」
「唄がいません」
先生は下唇噛んで、表情をさらに険しくさせた。
「わかった。私が探しに行くから、部屋に戻ってて」
三人はその言葉を聞いて、安心したのか部屋に戻っていった。事態を知っていた僕と先生は焦りが更に増す。
「唄が行った場所わかるか?」
生徒会室――いや、
「小学校」
その言葉に一瞬だけ先生の顔に哀愁が見えた。
「⋯⋯駐車場で待ってろ」
駐車場に着いて、少しすると先生が来た。
「そこの車乗って。高速で、小学校向かうから」
「いや、え? 何でそこまで」
「早く乗って」
「は、はい」
Ⅲ
「はい、これ」
先生は赤信号で、僕に何かの鍵を渡してきた。小さな親指サイズの鍵。
「それ、唄のアクセサリーの鍵だよ」
「え、何で先生が持ってんですか」
先生はバックミラー越しに僕の顔を隠して、大きく息を吐いた。
「私が、新一の彼女だったからだよ。覚えてないか?」
「それは大学の友達じゃないんですか?」
「失礼だな、あれは私だ。その鍵は私でネックレスは新一だったんだよ。私のであれを開けられる。要はペアになってるんだ。なのに新一が死んだ時、それなかったんだぞ? 必死に探したのにないから、意味わかんなかったさ」
「何でそれを唄が持ってるんですか」
「新一が渡したんだろうな。理由なんて知らない」
すぐに高速道路に乗った。
「どれくらいかかりますか?」
「結構かかると思うから、寝ててもいいよ」
「そんなこと言って逃げないでくださいよ。もういいでしょ? 話してください」
後部座席に座っているから、バックミラーを通しても、先生の目元しか見えなかった。目だけだと先生が今どんなことを思っているのかも、何もわからなかった。
苦しい沈黙が続く。今は亡き兄の恋人といるこの状況は気持ち悪い緊張感があった。今までただの教師だった米村先生が――と考えるだけで、やっぱり今まで通りというのは厳しい。
「新一が死んでから辛くて、何もできなくなって、ずっと引き篭もるようになったんだ。仕事もやめて、親の仕送りと生活保護で生活してたんだ。笑えるだろ?」
いや、全然笑えないし。何よりも驚くほどに気持ちが理解できた。
寿命とは違う形の大切な人の死は想像を絶するほどに辛い。だからそうなる気持ちが凄くわかった。現に僕もそんな風になっていた。
「でも、その何年後かな。みんなが中三の時、USの生配信を初めて見たんだ。USは新一のペンダントをかけていたんだよ。特注のあのペンダントは世界に一つしかないから、見間違うはずがなかった。そこからは早かったよ。体感は数週間だった。実際は、一年以上かかったけどね。
あのペンダントを作ってもらった鍵屋で持ち主のこと聞いたら、娘がUSと一緒の高校に通っていると言うんだ。すぐに雇ってもらえるように面接を受けた。それでキーからUSが誰かも教えてもらったんだ」
震える声と微動する吐息。先生にとっては今でもこれを打ち明けることが、怖かったんだ。それを証拠に早く言ってしまおうと、段々早口にもなっていた。
「それでいざ学校に行くと、こっちを一切見ようとしない新がいたんだよ。新に会えた喜びもあったけど、酷く暗い新に哀しくなった。だから頑張って話しかけ続けたのに、そっけないし、突き放そうとしてくるし。そのまま一ヶ月と少しが経った頃に、唄が生徒会長に立候補したいって言ってきてな。唄とは入学以来キーの紹介でちょこちょこ関わる機会があったんだ。唄は周りに気を使い過ぎてて、新は周りと関わらな過ぎててさ。全然似てないのに、似てんなって思って。二人を合わせれば、何か起こるんじゃないかって」
「僕は化学物質じゃないです」
「そんな返し前までできなかったぞ。いい反応が起きてる証拠だと思うけどな」
「先生は僕に何がして欲しかったんですか?」
「違かった。やっと分かってきた。新は新一じゃない。ずっと新が新一みたいになってくれることを願っていたし、それを目指してたんだが。根本的に違う。新は新で、新一は新一なんだよな」
はっきりじゃないけど、先生なりの答えなんだろう。
「唄に会ったらその鍵で開けてあげな。中に何が入ってるかは知らないけど、私にも見せてくれよ?」
「わかりました」
石川〉今どこにいる?
石川のLINEを見て、高速道路の看板を見た。
新〉大阪
石川〉何してんの?
新〉帰らないかも
石川〉りょーかい。戻ってきたら何があったか教えろよな
詮索しないあたりがやっぱりいいやつだと思った。
「本読むか?」
先生は窓を見る僕に言ってきた。まだ到着までは数時間あるだろう。先生は片手に小説を掲げていた。
「先生って本読むんですか?」
「読まない。これは新一からの最初の誕生日プレゼント。センスの欠片もないだろ? 嬉しかったけどな」
確かにセンスはどうかしてる。僕でももうちょっといいものを選べると思う。
「――いや、大丈夫です」
その本を見ても読みたいとは思えなかった。断った理由にそれ以外なんてない。
Ⅳ
ずっと整理がつかない。
先生とも全然話さなかったし、唄になんて言えばいいのかもわからなかった。どんどん時間は経って、あっという間に見慣れた景色になった。
「もう着きますね」
「ここら辺で降ろすから、一人で歩いていきな」
道路の脇にハザードを焚いて、先生は車を停めた。
ドアを開けた。唄にどんな顔を見せればいいのかもわからないし、不安しかない。
「困ったら笑え」
外に出た僕に先生は窓を開けて、微笑んだ。
安心したし、落ち着いた。
「ありがとうございます」
遠目からではあったけど、あの歩道に唄がいた。何をしているんだろう。唄はずっと海を見ていた。
ゆっくり歩いて近づいた。段々鮮明になっていく唄の姿。遥か先の水平線を眺めて、泣いているわけでもなかった。何かを口遊んでいる。漣の音で何も聴こえない。
「唄」
「⋯⋯やっぱり新くんは来てくれるよね」
海の方を向いている唄の声が潮風に乗って、僕に届いた。顔を見てくれない。唄はずっと海を見続けている。
「ねえ、死んでもいいかな?」
唄は真顔だった。本気なのか、冗談なのか。
「ここで終わらせるのか?」
「私は成れない。いくらやっても真似事だよ。これ以上はもう無理だよ」
唄は砂浜に向かって歩き出した。僕もそれについていく。
唄が砂浜に座ったから、僕も隣に座った。
「一緒に死のうよ」
唄はまだ一回も僕の顔を見てくれていない。視界に唄の手が入った。ギュッと砂を掴んで、すぐに指の間からその砂が漏れ出す。
「僕は死ねない。これが僕の信念だから」
「でも、怖くて私一人じゃ死ねないよ?」
「死なないでよ」
「じゃあどうすればいいの? もう無理。顔もバレて、音楽も好きにできなくなったんだよ?」
口を噤んで、下顎を震わせて、必死に何かを堪えていた。
「もう、自分がわからない。ぐちゃぐちゃなんだよ?」
喉がヒクヒクと動く。
「もういいよ。全部やめよ。USの唄も学校での唄も琴さんの前の唄も。全部やめなよ」
「何も残らないじゃん」
「僕は唄がいてくれればいいよ。僕の前で歌ってくれればいいじゃん。学校も僕だけじゃなくて、石川も一緒にさ。石川ならどんな唄も受け入れてくれるよ。優等生じゃなくていいよ。笑顔じゃなくてもいいよ。怒ってもいいよ。――泣いてもいいよ」
「僕はそのままの唄が好きだよ」
整理のつかない気持ちをそのまま口から出した。何も考えず、内容が伝わっているかなんてどうでもよくて、言いたいことを言った。身勝手で自分勝手で我儘な唄に思ったことをぶつけた。
それで、手を握った。
「キスしようよ」
「なんで?」
「なんとなく。こういう時するものでしょ? すると何かありそうじゃない?」
まだ気持ちを無理に立て直そうとしている唄を感じた。
「あのペンダントある?」
唄はポケットから出して、渡してきた。いつ見ても不恰好なペンダントで、やっぱりセンスを感じられなかった。鍵を差して、中を見る。それだけをすればいい。僕も中が気になっていた。でも――
立ち上がって、大声と一緒に海に投げた。
「⋯⋯何してんの」
今日初めて唄と目が合った。
「殺したよ」
僕は唄に強引にキスをした。