夜の公園にいた。
 私は幼児のような小さな姿で、がくがくと体を震わせる。目の前にいる男を見上げた。
 ずいっと彼の顔がこちらに近づく。

「…………っ、」

 俯いてぎゅっと目をつぶると同時に、声をかけられた。

「夜の公園に女の子が一人でいるなど感心しないな」

 その声と口調は思いのほか優しい。だが、キラリとひときわ尖った歯が垣間見え、私のなかから怖いという感情が消えることはなかった。
 街灯に照らされた銀の髪がさらさらと揺れ、瞳はあやしく赤色に光っている。

「……ぐすんっ」

 吸血鬼なんだろうか、そう考えると私は自然と泣いていたのだった。震えの止まらない体を守るように縮こませる。

「はは、そんなに怖がらなくともいい。先ほど血をいただいた女は貧血で倒れただけだ」

 やはり吸血鬼なんだ、逃げなきゃ。そう思って後ずさろうとしたときだ。

「ん……」

 唇にやわらかな感触。目の前で輝く銀の髪。

「…………っ!?」

 驚きのあまり、涙は止まっていた。おそるおそる私は唇に触れる。
 吸血鬼を見つめていたら、彼の手が頭に乗った。びくりと私の肩が跳ねる。

「ふっ、十年後にまた会えるというまじないだ」
「十年後?」
「ああ。そのときに、君のその甘い血をいただくとしよう」

 そして、吸血鬼は闇の中へと去っていった。