前回のあらすじ
暇を持て余した二人は、どうにも厄介そうな仕事をボーナス目当てで請けることに。
ミノの町までは、馬車で三日ほどかかった。とはいえこれはさほどに窮屈な旅でもなかった。狗蜥蜴は頭がよく、御者がちょっといい加減でも目的地まで走ってくれるということで、紙月たちは幸いにも二人きりで旅をすることができたからだった。
これの何が幸いと言って、人目をはばからずゲーム内アイテムを使用できることだろう。
夜は《魔除けのポプリ》で魔獣除けをして、幌馬車に《鳰の沈み布団》を敷いて朝までぐっすり眠れたし、食事で困れば《食神のテーブルクロス》を広げれば必要なだけの食糧が得られた。これらはどれもゲーム内アイテムだったが、使用回数に制限がなく、人目さえなければいくらでも使い放題というのがたまらなかった。
結局のところ自炊に慣れていようと面倒くさいものは面倒くさいうえに、何しろ二人そろってキャンプの経験も野宿の経験もろくにないのだ。野の獣を狩ろうなんて考えすらわかない。
そのようにして、世の冒険屋が見たらふざけんなと声を揃えて叫びそうな快適な旅を続けること三日。
辿り着いたミノの町は、スプロの町とはいささか雰囲気が異なった。
というより、
「さびれてんな」
「限界集落って感じ」
なのである。
かつては鉱山景気で大いに人で賑わったであろう、造りばかりは立派な町なのだが、肝心の住人がいなくなってしまって空き家ばかりで、かろうじて煮炊きの煙が何筋か見えるような、そんな恐ろしく寂れた街なのである。
ぶらりと大通りを歩いてみても、店の殆どはすでに閉店してしまっていて、地元の人間が使うらしい雑貨店などが、かろうじて退屈そうに店を構えているばかりである。
その雑貨店で林檎とかいうすっぱいリンゴを購入しがてら道を聞いて、ようやく訪れた先の冒険屋事務所もまた、やっぱりさびれていた。
かつては多くの冒険屋を抱えていたであろう実に大きく立派な建物なのだが、いまや看板も傾いて、それを直すだけの人出もないようだった。
たてつけの悪い扉を押し開けて入ってみれば、受付には居眠りをする老人が一人いるばかりで、実に閑散としたものである。
こんなんで大丈夫なのだろうかこの街はと一瞬紙月の脳裏に過りはしたが、考えてみれば街自体もこんな調子だから、この程度でもお釣りがくるくらいなのだろう。
「すみませーん!」
「ん、うううん、幻聴かな、客の声がする」
「いきなりネガティブすぎんだろ!」
何度か大声をかけて受付の老人を起こし、何度か幻覚ではないとやり取りをかわして、ようやく彼は納得したようだった。
「おお、すまん、すまん。今日日はすっかり客足もなくっての。てっきり寝酒が過ぎたのかと思ったわい」
「おいおい……本当に大丈夫だろうな?」
「なに、山に関しちゃ凄腕の冒険屋がまだ残っとるんじゃよ。ちょっと待っていなされ」
老人は思いの外にかくしゃくとした動きで奥にいったん引っ込むと、その細身からは想像できない大声で人を呼ばわっているようだった。そしてそれに対応する返事もまた、大きい。
「耳が遠い人同士の会話みたいだね」
「実際そうだって気がするぜ、俺は」
少しして、受付の老人に連れられてきたのも、やはり顔に長年のしわの刻み込まれた老婆だった。
老婆とはいえ背筋はしゃんと伸びて、若い頃と比べていくらか縮んだだろうに、それでも紙月と同じくらいの背丈があるし、ずっと骨太だ。
「おう、おう、おう、あんたらがスプロの若造かい。今日は世話んなるよ」
「世話になるって態度かババア! しっかり頭下げな!」
「チッ、ヨロシクオネガイシマース」
「このババア! まあいいさ。このババアがうちの筆頭冒険屋にして、最後の冒険屋、ピオーチョだ」
「よろしく頼むよ」
この豪快な挨拶には二人もさすがに気圧されたが、しかしそれ以上に驚いたのは、この老婆が、実物は初めて見る土蜘蛛という種族だったからである。
土蜘蛛というのは、山の神の従属種で、鍛冶が得意で多くは鉱山に住むという、それだけ聞けばドワーフのような種族なのだが、実態は大いに違う。
まず手足がそれぞれ四本ずつある。目も、普通の目が二つある外に、宝石のような小さな目が六つ、頭部にきらめいている。つまり、人間に蜘蛛のような特徴を足したような姿なのである。
ピオーチョは土蜘蛛の中でも地潜という氏族で、いわば土蜘蛛らしい土蜘蛛だった。酒を好み、鍛冶を得意とし、穴掘りを生きがいとする。
四本の腕はそれぞれ、細身で細工のうまい掴み手と、力強く頑丈な掘り手とに分かれ、足腰は重機のようにがっしりとしていた。
ルビーのようにきらきらとした多眼が、それぞれにこちらを眺めているのが感じられた。
「なんだい、あたしが別嬪だからってそんなに見つめるなよ。穴が開くだろ」
「大概図々しいなこのババア! 土蜘蛛が初めてなんだろ!」
「え、ああ、そう、そうなんです。すんません」
「謝んなくていいよ。あたしだって初めて人族を見た時は手足が欠けちまってるのかって思わず心配したもんさ」
そういうものらしい。
未来は何やら感心したような声を上げているばかりだが、半端に常識の凝り固まった紙月にはこの出会いはなかなかショッキングだった。獣人はまだ、人間にほど近い姿をしているから慣れてはいたが、この土蜘蛛という種族は、個々のパーツは人間と同じなのだが、それの数が違うのだ。そのことがひどく紙月を困惑させた。
慣れなければと思い詰める紙月に、しかしピオーチョは優しく二本の腕で肩を叩いた。
「なあに、無理に慣れる必要はないさ。ただそういう生き物もいるんだってくらいでいい。あたしだって人族と一緒に住むとなったら頭悩ませるかもしんないけど、庭先にいるくらいだったら受け入れられる。そんなもんさ」
偏屈と噂に高い土蜘蛛であったが、年をとるとそれも幾らか軟化して、魅力的な年寄りになるらしかった。
「ま、わかったら改めて自己紹介しようか。あたしはピオーチョ。得物はつるはしと槌。戦うのは専門じゃあないが、ミノ鉱山は庭みたいなもんさ。それからあとは、そう、美形だ」
「ほんっと図々しいなこのババア!」
「あーっと、紙月です。魔法使い。たいていの魔法は使えるけど、御覧の通り華奢でね、防御は相方に任せてる」
「未来です。御覧の通り防御は完璧です。でも攻撃は得意じゃないので相方に任せてます」
「ふん、二人で一人ってわけだ。いいねえ、あたしにもそんな相手が欲しかったもんだ」
「盛んなババア!」
「やかましい!」
「へぶっ」
ピオーチョという土蜘蛛は実に賑やかで、一人現れただけでもうさびれた冒険屋事務所がいっぱいになってしまったようだった。
「よーし、坑道まではちょっとあるからね、続きは馬車で話そうじゃないか」
そういうことになった。
用語解説
・《魔除けのポプリ》
ゲームアイテム。使用することで一定時間低レベルのモンスターが寄ってこないようにする効果がある。
『魔女の作るポプリは評判がいい。何しろ文句が出たためしがない。効果がなかった時には、魔物に食われて帰ってこないからな』
・《鳰の沈み布団》
ゲームアイテム。使用すると状態異常の一つである睡眠状態を任意に引き起こすことができる。状態異常である不眠の解除や、一部地域において時間を経過させる効果、また入眠によってのみ侵入できる特殊な地域に渡る効果などが期待される。
『水鳥は本質的に水に潜る事よりも水に浮く事こそが生態の肝要である。しかして鳰の一字は水に入る事をこそその本質とする。命無き鳰鳥の羽毛は、横たわる者を瞬く間に眠りの底に沈めるだろう。目覚める術のない者にとって、それは死と何ら変わりない安らぎである』
・《食神のテーブルクロス》
ゲーム内アイテム。状態異常の一つである飢餓を回復する効果がある。飢餓は飲食アイテムを食べることでも回復するが、《食神のテーブルクロス》は入手難易度こそ高いものの、重量値も低く、使用回数に制限がない。
この世界では使用するとその時の腹具合に応じた適切な量だけが提供されるようだ。
『慌てるんじゃない。君はただ腹が減っているだけなんだ』
・ミノの町(La Mino)
ミノの山を仰ぐように作られた町、というより、ミノの山を鉱山として開拓するために作られた鉱山町。
最盛期は大層にぎわった計画都市であるが、鉱山が枯れた今は、職人たちや一部の住人が細々と暮らしている程度である。
・林檎(pomo)
赤い果皮に白い果実を持つ。酸味が強く、硬い。主に酒の原料にされるほか、加熱調理されたり、生食されたりする。森で採れるほか、北方では広く栽培もされている。
・ピオーチョ(Pioĉo)
ミノの町の細工師兼冒険屋。七十代の土蜘蛛、女性。
・土蜘蛛(longa krurulo)
足の長い人の意味。
隣人種の一種。
山の神ウヌオクルロの従属種。
四つ足四つ腕で、人間のような二つの目の他に、頭部に六つの宝石様の目、合わせて八つの目を持つ。
人間によく似ているが、皮膚はやや硬く、卵胎生。
氏族によって形態や生態は異なる。
・地潜(ter-araneo)
土蜘蛛と言えば人が想像する、代表的な種族。山に住まうものが多く、鉱山業と鍛冶を得意とする。種族的に山の神の加護を賜っており、ほぼ完全な暗視、窒息しない、鉱石の匂いを感じるなどの種族特性を持つ。
細工の得意な小さめの「掴み手」と頑丈で力の強い「掘り手」に腕が明確に分かれており、足腰ががっしりとしている。
酒を好み、仕事以外にはやや大雑把。
・山の神ウヌオクルロ(Unuokululo)
境界の神、火の神に次いで三番目にこの地に訪れた天津神。製鉄や鍛冶の神でもあり、山に住まう土蜘蛛ロンガクルルロ達は特に強くこの神の加護を受けている。
大まかに言えば一つ目の巨人とされるが、その詳細な姿は想起することさえ狂気を呼ぶ。
暇を持て余した二人は、どうにも厄介そうな仕事をボーナス目当てで請けることに。
ミノの町までは、馬車で三日ほどかかった。とはいえこれはさほどに窮屈な旅でもなかった。狗蜥蜴は頭がよく、御者がちょっといい加減でも目的地まで走ってくれるということで、紙月たちは幸いにも二人きりで旅をすることができたからだった。
これの何が幸いと言って、人目をはばからずゲーム内アイテムを使用できることだろう。
夜は《魔除けのポプリ》で魔獣除けをして、幌馬車に《鳰の沈み布団》を敷いて朝までぐっすり眠れたし、食事で困れば《食神のテーブルクロス》を広げれば必要なだけの食糧が得られた。これらはどれもゲーム内アイテムだったが、使用回数に制限がなく、人目さえなければいくらでも使い放題というのがたまらなかった。
結局のところ自炊に慣れていようと面倒くさいものは面倒くさいうえに、何しろ二人そろってキャンプの経験も野宿の経験もろくにないのだ。野の獣を狩ろうなんて考えすらわかない。
そのようにして、世の冒険屋が見たらふざけんなと声を揃えて叫びそうな快適な旅を続けること三日。
辿り着いたミノの町は、スプロの町とはいささか雰囲気が異なった。
というより、
「さびれてんな」
「限界集落って感じ」
なのである。
かつては鉱山景気で大いに人で賑わったであろう、造りばかりは立派な町なのだが、肝心の住人がいなくなってしまって空き家ばかりで、かろうじて煮炊きの煙が何筋か見えるような、そんな恐ろしく寂れた街なのである。
ぶらりと大通りを歩いてみても、店の殆どはすでに閉店してしまっていて、地元の人間が使うらしい雑貨店などが、かろうじて退屈そうに店を構えているばかりである。
その雑貨店で林檎とかいうすっぱいリンゴを購入しがてら道を聞いて、ようやく訪れた先の冒険屋事務所もまた、やっぱりさびれていた。
かつては多くの冒険屋を抱えていたであろう実に大きく立派な建物なのだが、いまや看板も傾いて、それを直すだけの人出もないようだった。
たてつけの悪い扉を押し開けて入ってみれば、受付には居眠りをする老人が一人いるばかりで、実に閑散としたものである。
こんなんで大丈夫なのだろうかこの街はと一瞬紙月の脳裏に過りはしたが、考えてみれば街自体もこんな調子だから、この程度でもお釣りがくるくらいなのだろう。
「すみませーん!」
「ん、うううん、幻聴かな、客の声がする」
「いきなりネガティブすぎんだろ!」
何度か大声をかけて受付の老人を起こし、何度か幻覚ではないとやり取りをかわして、ようやく彼は納得したようだった。
「おお、すまん、すまん。今日日はすっかり客足もなくっての。てっきり寝酒が過ぎたのかと思ったわい」
「おいおい……本当に大丈夫だろうな?」
「なに、山に関しちゃ凄腕の冒険屋がまだ残っとるんじゃよ。ちょっと待っていなされ」
老人は思いの外にかくしゃくとした動きで奥にいったん引っ込むと、その細身からは想像できない大声で人を呼ばわっているようだった。そしてそれに対応する返事もまた、大きい。
「耳が遠い人同士の会話みたいだね」
「実際そうだって気がするぜ、俺は」
少しして、受付の老人に連れられてきたのも、やはり顔に長年のしわの刻み込まれた老婆だった。
老婆とはいえ背筋はしゃんと伸びて、若い頃と比べていくらか縮んだだろうに、それでも紙月と同じくらいの背丈があるし、ずっと骨太だ。
「おう、おう、おう、あんたらがスプロの若造かい。今日は世話んなるよ」
「世話になるって態度かババア! しっかり頭下げな!」
「チッ、ヨロシクオネガイシマース」
「このババア! まあいいさ。このババアがうちの筆頭冒険屋にして、最後の冒険屋、ピオーチョだ」
「よろしく頼むよ」
この豪快な挨拶には二人もさすがに気圧されたが、しかしそれ以上に驚いたのは、この老婆が、実物は初めて見る土蜘蛛という種族だったからである。
土蜘蛛というのは、山の神の従属種で、鍛冶が得意で多くは鉱山に住むという、それだけ聞けばドワーフのような種族なのだが、実態は大いに違う。
まず手足がそれぞれ四本ずつある。目も、普通の目が二つある外に、宝石のような小さな目が六つ、頭部にきらめいている。つまり、人間に蜘蛛のような特徴を足したような姿なのである。
ピオーチョは土蜘蛛の中でも地潜という氏族で、いわば土蜘蛛らしい土蜘蛛だった。酒を好み、鍛冶を得意とし、穴掘りを生きがいとする。
四本の腕はそれぞれ、細身で細工のうまい掴み手と、力強く頑丈な掘り手とに分かれ、足腰は重機のようにがっしりとしていた。
ルビーのようにきらきらとした多眼が、それぞれにこちらを眺めているのが感じられた。
「なんだい、あたしが別嬪だからってそんなに見つめるなよ。穴が開くだろ」
「大概図々しいなこのババア! 土蜘蛛が初めてなんだろ!」
「え、ああ、そう、そうなんです。すんません」
「謝んなくていいよ。あたしだって初めて人族を見た時は手足が欠けちまってるのかって思わず心配したもんさ」
そういうものらしい。
未来は何やら感心したような声を上げているばかりだが、半端に常識の凝り固まった紙月にはこの出会いはなかなかショッキングだった。獣人はまだ、人間にほど近い姿をしているから慣れてはいたが、この土蜘蛛という種族は、個々のパーツは人間と同じなのだが、それの数が違うのだ。そのことがひどく紙月を困惑させた。
慣れなければと思い詰める紙月に、しかしピオーチョは優しく二本の腕で肩を叩いた。
「なあに、無理に慣れる必要はないさ。ただそういう生き物もいるんだってくらいでいい。あたしだって人族と一緒に住むとなったら頭悩ませるかもしんないけど、庭先にいるくらいだったら受け入れられる。そんなもんさ」
偏屈と噂に高い土蜘蛛であったが、年をとるとそれも幾らか軟化して、魅力的な年寄りになるらしかった。
「ま、わかったら改めて自己紹介しようか。あたしはピオーチョ。得物はつるはしと槌。戦うのは専門じゃあないが、ミノ鉱山は庭みたいなもんさ。それからあとは、そう、美形だ」
「ほんっと図々しいなこのババア!」
「あーっと、紙月です。魔法使い。たいていの魔法は使えるけど、御覧の通り華奢でね、防御は相方に任せてる」
「未来です。御覧の通り防御は完璧です。でも攻撃は得意じゃないので相方に任せてます」
「ふん、二人で一人ってわけだ。いいねえ、あたしにもそんな相手が欲しかったもんだ」
「盛んなババア!」
「やかましい!」
「へぶっ」
ピオーチョという土蜘蛛は実に賑やかで、一人現れただけでもうさびれた冒険屋事務所がいっぱいになってしまったようだった。
「よーし、坑道まではちょっとあるからね、続きは馬車で話そうじゃないか」
そういうことになった。
用語解説
・《魔除けのポプリ》
ゲームアイテム。使用することで一定時間低レベルのモンスターが寄ってこないようにする効果がある。
『魔女の作るポプリは評判がいい。何しろ文句が出たためしがない。効果がなかった時には、魔物に食われて帰ってこないからな』
・《鳰の沈み布団》
ゲームアイテム。使用すると状態異常の一つである睡眠状態を任意に引き起こすことができる。状態異常である不眠の解除や、一部地域において時間を経過させる効果、また入眠によってのみ侵入できる特殊な地域に渡る効果などが期待される。
『水鳥は本質的に水に潜る事よりも水に浮く事こそが生態の肝要である。しかして鳰の一字は水に入る事をこそその本質とする。命無き鳰鳥の羽毛は、横たわる者を瞬く間に眠りの底に沈めるだろう。目覚める術のない者にとって、それは死と何ら変わりない安らぎである』
・《食神のテーブルクロス》
ゲーム内アイテム。状態異常の一つである飢餓を回復する効果がある。飢餓は飲食アイテムを食べることでも回復するが、《食神のテーブルクロス》は入手難易度こそ高いものの、重量値も低く、使用回数に制限がない。
この世界では使用するとその時の腹具合に応じた適切な量だけが提供されるようだ。
『慌てるんじゃない。君はただ腹が減っているだけなんだ』
・ミノの町(La Mino)
ミノの山を仰ぐように作られた町、というより、ミノの山を鉱山として開拓するために作られた鉱山町。
最盛期は大層にぎわった計画都市であるが、鉱山が枯れた今は、職人たちや一部の住人が細々と暮らしている程度である。
・林檎(pomo)
赤い果皮に白い果実を持つ。酸味が強く、硬い。主に酒の原料にされるほか、加熱調理されたり、生食されたりする。森で採れるほか、北方では広く栽培もされている。
・ピオーチョ(Pioĉo)
ミノの町の細工師兼冒険屋。七十代の土蜘蛛、女性。
・土蜘蛛(longa krurulo)
足の長い人の意味。
隣人種の一種。
山の神ウヌオクルロの従属種。
四つ足四つ腕で、人間のような二つの目の他に、頭部に六つの宝石様の目、合わせて八つの目を持つ。
人間によく似ているが、皮膚はやや硬く、卵胎生。
氏族によって形態や生態は異なる。
・地潜(ter-araneo)
土蜘蛛と言えば人が想像する、代表的な種族。山に住まうものが多く、鉱山業と鍛冶を得意とする。種族的に山の神の加護を賜っており、ほぼ完全な暗視、窒息しない、鉱石の匂いを感じるなどの種族特性を持つ。
細工の得意な小さめの「掴み手」と頑丈で力の強い「掘り手」に腕が明確に分かれており、足腰ががっしりとしている。
酒を好み、仕事以外にはやや大雑把。
・山の神ウヌオクルロ(Unuokululo)
境界の神、火の神に次いで三番目にこの地に訪れた天津神。製鉄や鍛冶の神でもあり、山に住まう土蜘蛛ロンガクルルロ達は特に強くこの神の加護を受けている。
大まかに言えば一つ目の巨人とされるが、その詳細な姿は想起することさえ狂気を呼ぶ。