まさか自分が恋を今更自覚しているとは思わず捲し立てるように話す。

「でも! ニコラとはその……曲がりなりにも夫婦で、その愛情はあって、今までも大事に思ってたというか」
「まあ、おそらくニコラは愛だろうね。リーズもニコラの事を大事に思っているのは間違いないと思うよ。でも、たぶん二人はすっ飛ばしたんだよ。『恋』の過程を」
「恋の過程……?」
「ああ、記憶が戻らないまま夫婦になって、一目惚れでもない人間と家族になった。家族としては好きだろうけど、恋人として意識してなかったんだよ」

 そこまで言われてリーズには思い当たる節がいくつかあった。
 昔は思わなかったのに、最近はニコラに可愛く思われたいと思う。
 昔は思わなかったのに、昨日は近づけられた顔を見て心臓が止まりそうになった。

 今まで感じていたふわっとした家族愛のようなものとは別の、なんだかときめくようなそんな気持ち。

「そっか、恋……」

 リーズの頭の中にたくさんのニコラの笑顔と声が思い浮かばれる。

(ああ、早く会いたい。会ってその声を聞きたい)