最初は、ただ一目惚れだった。


私の世界は、あの日までずっと悴んでいた。
小学生の頃、あどけない心にいじめという杭を打たれてからというもの、私は大人も子供も誰彼構わず色のない目で見ることとなった。
現状から逃れようとして、いや、自分がいかに生きている価値があるかを証明したくて、中学校は死に物狂いで勉強して偏差値のいいところに入った。
…けれど何も満たされない。
いつの間にか、自分の心には受験生時代に培った自他を比較していかに自分が劣っているかを認識する冴えた目と、少しでも自分より劣っている人間がいれば心の中で(あくまでも心の中だけで)蔑む汚い笑いだけが残った。
1年生の夏には、もう身体と表情が動かなくなっていた。
それからはもう記憶さえもよく残っていなくて、ただ唯一覚えているのは飼っていたハムスターが亡くなったあとの衝動。
生き物の死というものを目の前にして、心が大きく揺り動かされたのかもしれない。
何故か、まぁ、保健室くらいには行ってやろうという気になったのだ。
もう、中学に入ってから2年間という時間を自堕落に過ごした冬の日だった。

「あらまゆちゃん、久しぶりじゃない!」
久々の登校に、養護の先生は喜んでいる様子だった。
——どうせ、嬉しくなんてないくせに。
一瞬、自分の心がそんな声に侵されて、また怖くなった。
人を傷つけやしないか。
人に傷つけられやしないか。
やっぱり、自分の世界は悴んでいる。そう思った。
暫く彼女の長い話を聞き流していると、そのデスクに一枚の小さな紙が置いてあるのが見えた。
掠れかけた鉛筆の線で、今にも消えそうな少女の横顔が描かれていた。
哀愁の漂う、口角に言えないまま残った何かを隠したような表情だった。
「これは誰が描いたんですか?」
気が付けば口に出ていた。
「ああこれはねぇ、うちの学校の生徒さん。なんかくれたのよ。すっごい上手よねぇ。」
そのあと、彼女はその生徒の名前も口にしていたような気がしたけれどもう次の瞬間には忘れてしまった。
結局、歯抜けではあったがその後も少しずつ保健室に通い始めた。
あの絵が見たかった。
毎日ではないからだろうか、行った時には必ず同じ線で描かれた別の絵がデスクの上の書類と重なって置いてあった。
何度もそれを見た。
いつも必ず細い、消え入りそうな鉛筆で描かれていて、たまにその横には誰かの詩が添えられていた。
心に穴が空いた青年の絵、目を閉じてじっと何かを祈る少女の絵。
全て自分と重なった。
寂しかった。自分は寂しかった。
でも、これを見ている時だけは、誰かわかってくれる人がいるような気がして、安心した。

その日も私は保健室に行った。
朝行って、絵を見て、昼に帰って寝る。
それだけでその時の自分は誰よりも幸せだと思って。
その日の絵は、少女か、あるいは少年が炎に囲まれている絵だった。
ただの炎じゃない。
綺麗に色付けされた様々な色の炎を、その人物は自由自在に操っているようにも見えたし、逆に炎に囲まれてしまって、あと命が数分しかないようにも見えた。
-心火を燃やして-
横にはそう、小さく綴られていた。
私には意味がわからなかった。
「これ、あげるよ。好きなんでしょ?」
とうとう、養護の先生がそんなことを言い出す。
「いやいや、いいですよ。だって貴方にあげたものでしょ。」
私は思わず遠慮して手を横に振った。
いらないわけじゃなかったけれど、そうしてこの絵の作者に嫌われたくはなかった。
「いや、いいって言ってるんだよ。描いた子がさ。」
えっ、と声が出た。
困った顔をした先生の後ろに、ぬっと誰かが現れた。
いや、どうやらずっといたみたいだ。
前髪で目が隠れて、その上マスクまでしていて、どんな人かもわからない。
でも不思議と、自分と同じ香りがする。
「この子。よく絵を見にくる子がいるって話をしたら、あげてもいいって言い出したの。」
ぺこり、とその子はお辞儀をした。
何も喋りはしなかったが。
「えっと、ごめんなさい名前は何でしたっけ?」
私はあたかも、忘れてませんよ、今ちょっと思い出せないだけで、というような態度をとった。
恥ずかしさから自然と見栄を張る癖がついていたらしい。
「藤原さらさんよ。貴方と同じ2年生の。」
もう一回えっ、と声が出た。
まじか。
それが素直な感想。
こんなに儚くて、綺麗な絵を同い年が描いているのか。
不思議と劣等感には駆られなかった。
むしろそこでは尊敬と、驚きが純粋に混ざり合っていた。
久々の経験だった。
指先が、受け取った紙の熱を受けて少しだけ温かくなった気がした。
「どうも。」
「ど、どうも。」
最初に口を開いたのは向こうで、私はぎこちない返事を返した。
相手の声は少し掠れていた。
藤原さら。
忘れないように、何度もその名前を反芻した。
よしよし、覚えた覚えた。
手の中の紙を見て、私は思わずにやける。
まさかこんなところで会えるとは思わなかった。
「じゃ...」
藤原さんは、そのまま保健室から去ってしまった。
私は、その黒くて曲がった背中が、自分と、そしてこの絵と重なって共鳴して見えた。
同じ傷を負った人に見えた。
そしてどこか、近くて分かり合えるようなものを感じた。
まだ寒い、2月のことだった。


本棚を整理していると、少し前のスケジュール帳が飛び出てきてしまった。
おっとっと、なんて言いながらそれを拾い上げて、意味もなく最初のページをめくってみるとそこには何か紙が挟まっていた。
取ってみた瞬間、笑いが込み上げる。
-心火を燃やして-
その絵の横にはそう綴られていて、一瞬でいつの絵か分かった。
あぁ懐かしいな。
結局あの後、この言葉を調べたら出てきたのは詩でも小説の一節でもなく、彼女が好きな歌の歌詞だったっけ。
あの時、荒んだ心で見たそれには自分じゃ計り知れないほどの意味があるように見えたけれど、今はどうだろうか。
どうだろうか。
…今思い返せば、私はあの時、ただ傷を舐め合いたかったのだろうと思う。
誰かに傷を舐めてもらうことで自分が癒やされ、誰かの傷を舐めることで優越感を得る。
なんて寂しい関係なのだろう、今でこそそう思うけれど、きっと当時の私が渇望した「友達」だとか「恋人」っていうのはそういう関係なのだ。


藤原さんと私は、すぐに意気投合した。
やはり自分の思う通りで、彼女は自分と同じようにどこか「闇」を抱えた人間だった。
いつも黒タイツ黒マスクに、日の光を当てると珍しくネイビーに透ける黒いショートヘア(私の家系は全員ブラウンだから羨ましい)、そして顔を覆い隠す前髪。
パーカーが着やすくて好きで、それしか着てこない。
好きなものは仮面ライダー、嫌いなものは男子(仮面ライダーは思いっきり男性主人公の男子向けコンテンツのくせに)。
そんなことを、何故か無意識に覚えてしまっていた。
私たちは「保健室仲間」として、そこに地縛霊の如く居座っては健常者の皆様が授業を受けていらっしゃる間中、ずっとずっと窓の外を眺めて話し合っていた。
「ところで藤原さんは…」
「さらでいい。」
出会って1週間も経たない時、彼女はこう言ってふっと微笑んだ。
その笑顔が、初めて心のどこかにすとんと綺麗に落ちるのを感じた。
他人の幸を妬みも何もない純粋な目で見ることが出来たことに、自分でも驚きだ。
ただ単に綺麗だな、と。
「えーっと、さらちゃんは、いつからこうなの?」
もうこんな質問ができた。
「んー…中1の終わりから。でも今は保健室登校。」
夏に行けなくなった私よりも少し遅かった。
そんなところも少し意外で、また面白かった。
見た目から闇が溢れ出してるのに、って。
「まゆちゃんは。いつから。」
ぼそぼそっと言葉を吐き出した彼女の顔を見て、私はふぅと息を吐いた。
「そのちょっと前から。保健室登校になったのは最近ね。それまでは家でネット活動。」
「ネット活動?なにしてたの。」
「声劇。声に劇って書いてね。通話でやるやつ。」
「へえ。」
そんな会話が、淡々と続いていく。
私は元々、明るくてわいわい騒ぐような人が好きではなかった。
自分がその人の隣にいるとたちまち惨めに思えたし、うるさいし。
うるさいし。
だから、きっと彼女の静かな風貌と掠れた声がいいな、と思った。
枯れた枝が、雪の重みに折られないようにまだ耐えている冬だった。

保健室で長い時間を意味もなく過ごして、結局二人は中学3年生に上がってしまった。
正直教室に戻れる気はあまりしなかったが、始業式の日、その気が一気に変わってしまった。
なんと、彼女と私は一番後ろの、隣同士の席だったのだ。
それを糧に、私たちは教室にも足を運ぶようになった。
実を言うと、元の生活に戻りたかった。
健常者になりたかった。
上についている附属の高校にもあがりたかったし、そのためにこの無駄に息を紡いでいる時間をどうにかしたかった。
…彼女もそうだっただろうか。
そうだといいな、なんて願いながら、私はたまに同じ授業を受け、それ以外の時間は保健室で過ごした。
私にとって、家よりも家のように錯覚してしまうほど、結局そこは居心地が良かった。
昼休み、私たちはよく一緒に、保健室の白い壁と向き合いながらお弁当を食べた。
私は子供の頃患っていた持病のこともあり、少食には自信があったのに彼女の方がずっと量が少なかった。
更に、彼女はいつも大量の薬を食後に飲んでいた。
赤、白、たまにオレンジ。
色とりどりの錠剤たちが彼女の口を通って、喉に押し込まれていく。
彼女にも持病があって、手術で完治した私とは違って現在も治療中だという。
彼女は薬を飲んでいる時が一番苦しそうだった。
そしてそんな彼女が、儚い、消えてしまいそうな存在に見えた。
美しく見えた。
同じように脆くて弱い、近い存在なのに、もう手を伸ばしても届かないようなところにもいる気がして、遠いような感じもした。
そんなところがまた良いな、と思った。
「授業の内容、全くわかんないね。」
彼女がふと、箸を置いてそんなようなことを呟いた。
実は、私は不登校を脱却するべく個人塾に通わさせられていて、そこが案外気に入っていたので勉強はなんとか、まぁなんとか、とかろうじて言えるほどには追いついていた。
またとない機会だと思って、私は無意識のうちに立ち上がる。
「私、塾行ってるの。一緒に行こうよ。すごく楽しいところでね、面白いの。学校の教科書を持っていってもいいし、わからないところは教えてくれるの。宿題をやってもいいんだよ。よくない?」
未だかつてないほど自分が早口になっていることを私は自覚しないまま、ここまで一息で捲し立てた。
気がつけば彼女の目の前に仁王立ちをするような姿勢になってしまっていた。
「…若い男がいるところは、ちょっと。それに誰かを勉強する理由にはできない。」
彼女の返答はこうだった。
付け加えられた一言に、少しだけ寂しさを覚える。
そう言えば男子が嫌いだったんだったな、彼女は。
「…どうして男子が嫌いなの?」
私はもう一度椅子に座り直して尋ねた。
そう言えば少し気になっていたのだ、よくわからないから。
仮面ライダーが好きなら、尚更何故?そう思った。
彼女は少しおろおろして、戸惑って、その後深呼吸をして、そしてそっと「引かない?」と恐る恐る囁いた。
「引かないよ。だって私たちもうこんなに仲良いでしょ?」
私は自信たっぷりに答えた。
この時すでに私たちは四六時中一緒にいたし、周りから二人はセット、なんていう変な認定もされていたし。
彼女は私の目を暫く見つめて、私がいかに本気かを見定めると大きく深呼吸をして答えてくれた。
「むかつくんだよ、あいつらを見てると。」
静寂が流れた。
私は、そっか、とだけ答えた。
彼女は自分が思ってるよりもずっと大きな闇を抱えているんだな、と思うようになったのはこの頃だったのかもしれない。
彼女は白いだけの壁を、とても妬ましそうに、羨ましそうに睨んでいた。
きっとなりたいんだろうな、男に。
結局同じ塾には暫く行ってくれそうになかった。
でも、LINEは交換してくれた。
新しい彼女を見ることができた。
私の中の彼女が、次々と作り上げられていった。


そういえば、あの時はよくわからない風潮があったっけ、なんて私は当時のLINEの履歴を見返しながら思い返す。
私が彼女と保健室で意見や芸術観を交えていた時よりも少し前、ネットで有名なインフルエンサーがジェンダー問題に関する自分の境遇と、これまで受けてきた差別の数々をカミングアウトした。
そこから波紋が広がっていって、どんどんどんどん広がっていって、今まで隠さなければいけなかった傷を隠さなくてもいい時代がやってきた。
しかしそれは同時に、まだ柔らかい、産道を通りたてのふにゃふにゃな頭を持った若者たちに多大な影響を及ぼしすぎる出来事でもあって、きっと私たちにも多かれ少なかれそれに影響されていた部分があったのだろう。
彼女もそう。
私もそう。
そんなことがあって私は、彼女のことをうっかり、まるで友達という線を一歩踏み出した、その先の関係のようだなんて思い込み始めてしまったわけだ。
今思えば、ほんとにくだらない。


1、2ヶ月「お試し」で教室に通ってみて、その後本格的に復帰をし始めた。
授業も頑張って、出来る限り出るようにした。
私は日々の生活に何と無く希望を見出していくうちに、本気でもとの生活に戻りたいと思い始めていた。
附属高校にもあがりたいと、そんな夢まで抱き始めていた。
しかし残念ながら、高校に上がるにはいくつかの条件がある。
赤点を3年終了の時点で〜個以上取らないこと、だとか、出席日数が必要日数の何分の幾つだとダメ、だとか。
この、病み上がりの折れた足じゃとてもそんな遠いゴールまで歩いて行けそうになくて、すごく怖い。
でも、今私たちは、傷だらけの足で、脱臼しかけの肩と曲がった背中を支え合って生きてるんだ。
そう思うだけでいくらか心の重荷がマシになった。
「あー、まぁ受けただけいいっしょ。」
中3初めてのテストが帰ってきた時、私は言い聞かせるようにそう呟いた。
恐らく、そう悪くはない点数だろう。
赤点もないし。
でも1年の最初の試験以降考査は一切受けていなかったから、あの光り輝くガリ勉時代と比較してしまうとまぁ痛々しい。
まあまあ、今までよりかはずっといいだろう。
だって受けられたんだから。
「さらちゃんはどうだった?」
隣の席を覗き込もうとしたその瞬間、彼女は持っていた回答用紙をさっと隠した。
あっ、と時が止まった。
そうか、まぁそうだよね。
彼女も私と同じように、自分が思うほどうまくはいかなかったのだろう。
「…赤点、やばい。」
「やばい?」
「うん、やばい。」
ぼそぼそっ、と呟くその顔は、よほど焦っているようだった。
微かに見える目元が、少し青かった。
でも私は何故か安心した。
嗚呼、彼女もこれで焦るくらいに、同じ気持ちなんだ。
「…勉強、しなきゃ。」
そうだね、と私も頷く。
私も赤点はなかったにしろ、赤点まっしぐらな点数ではあったから。
やばいやばい、と2人で焦りあって、結局その楽しい時間を持て余したまま、あっという間に夏になった。
気がつけば大きくなった太陽が私たちを垂直に照らしていて、影はどんどん小さくなっていった。
「夏休み初日さ、ちょっと朝からカフェで勉強、しない?」
登校期間も一旦終わりかけの昼休み、私は思ってもないようなことを口にした。
彼女もわかっていたと思う。
私はただ、彼女に会いたいだけだった。
「うん、やろう。」
珍しく彼女は本気っぽい目をして言った。
でも彼女は、もうテストや宿題なんかには目も向けていない様子だった。
彼女は初めて、私の目を見て、確かにその目を輝かせてそう言ったのだ。
胸が高鳴った。
こんなことは初めてだった。
今まで誰とも遊びに行ったことなんてない。
遠くに行ったこともない。
ましてや不登校の時なんて薄暗い部屋で一日中布団と化していて、平日休日関係なく外に出たがらなかった。
それなのに私は今、勉強道具を持って、薄汚れた自分にはとても眩しすぎるところに出かけようとしている。
きっと彼女も同じだ。
彼女は自分と同じ境遇で、同じように這いあがろうとする仲間に見えた。
私たちは、大好きだった日常を新たな形で、取り戻そうともがき出していた。

「たはは、ほんとわかんない。ねぇ、わかる?さらちゃん。ほらここ。」
その日はすぐにやってきた。
私たちはカフェで互いに好きなドリンクを頼みあって、テーブルに数学の問題集を広げては適当に解いてるフリをした。
私はバニラフラペチーノ、彼女はアイスコーヒー。
またそんなところも私の目には魅力的に映った。
「え、やってないけど。」
いつも通りローテンションな声に顔を上げると、案の定彼女もやっていなかった。
それどころかかなり堂々と、堂々とスマホをいじっている。
もはや解くフリすらしていない。
これは相当の猛者と見た。
「おっとぉ、お主悪よのお…」
「そういうまゆちゃんだって全然進んでないじゃん。おそろい。」
私のボケに、見事なダイレクトアタック。
私たちは暫くよくわからないツボにハマって、互いの笑い声に更に笑いが誘われて、結果机に突っ伏したまま動けなくなる。
嗚呼、青春って素敵。
顔を上げたあと、彼女の楽しそうな姿を見てそう感じた。
誰かと話していてここまで笑ったことはなかったし、ここまで相手が笑ったこともなかった。
そして何より、保健室で出会ったあの幽霊のような彼女が、今目の前でこんなに大胆に笑っている姿を見て、自分も案外誰かの役に立てそうじゃん、なんて幻想を抱いて誇ることができた。
私の前だけで変わっていく彼女が面白かった。
「そういえば、まゆちゃんってSNSやってるんだよね。何やってるの。」
笑いを何とか収めた後、ぽそ、と彼女はつぶやく。
急にどうしたんだろう。
「え、そう、やってるけど。」
「どのアプリ?」
「あ、えーっと。」
私は今までに無いほど詰め寄ってくる彼女に困惑しつつも、自分のスマホのホーム画面を見せて青い鳥のマークを指差した。
「あ、私も一緒。」
彼女はにこり、と微笑んだ。
その笑顔に、私の頬ももう一度緩む。
「え、何、交換する?」
「うん、したい。」
彼女は少し恥ずかしそうに、そう答えた。
私は少しだけ躊躇った。
私は、出来る限りネット内での活動を現実(リアル)の友達には見せないようにしていた。
恥ずかしいし、もしなにかいざこざがあった時に顔でも晒されたらたまったものじゃない。
でも、彼女なら…
いや、まだ早いな。
でも、見てみたい。彼女の世界。彼女の裏の世界。
私は自分の中の欲を抑えきれずに、半端な勇気を振り絞って学校の友達とも昔繋がっていた、リアルアカウントの方を差し出した。
「はいこれ、私のアカウント。よろしく。」
念のためIDを彼女のLINEに送ると、彼女はすぐにフォローしてきてくれた。
どうやら、ネットでも絵をあげているみたいだ。
固定のつぶやきには、自己紹介と共に彼女独特の消え入るような絵が上手く加工されて載っていた。
なんとなしに画面をスクロールして、最新のつぶやきが表示されたその時、私は目を大きく見開いた。
『でーと。』
ひらがなで、ただそれだけの文字が添えられた画像のつぶやき。
そこには、バニラフラペチーノのカップと、モザイクをかけられた問題集にペンを握る小さな手。
私だ。
私が写ってる。
何かが胸を貫く感覚がした。デート、いやそんな筈は。何度も文字を見返して、その度にその文字が入ってくる。
私はふと、彼女に視線を移した。
今まで全然意識していなかったけれど、彼女が身を包んでいるのはジーパンに、Tシャツに、それから腕を捲った薄いカーディガン。細い腕に輝く時計は黒く、胸に光るネックレスは銀色の光を反射している。
ワンピースの私とは相対する、まるで、本当にゲームにでも出てきそうな男性の姿。
「なに?どしたの。」
声に驚いて彼女の瞳を見ると、そこにはわざとらしく悪い笑顔があった。いつもとは違う足の組み方に、さっきのつぶやきと、そしてSNSをここで交換したがった訳。その笑顔に全てが込められている。
私はこの時、初めて、自分の内に潜む心を自覚した。
私は、今こんなにときめいてしまっている。
今こんなにドキドキ、そんな感情を抱いてしまっている。
嗚呼、私は彼女が好きなんだ。
それに気づいてしまったその瞬間、私はもう元には戻れなくなってしまったようだ。
「あ、いや、なんでもない。」
何を隠したいのかも分からずに、私は吃りながらバニラフラペチーノのストローを咥える。
なんでホットにしなかったんだろう。
そうしたら可愛いところのひとつやふたつ、取り繕うことができたのに。
いつもは考えないことに頭を使って、糖分が足りなくなって、またフラペチーノをひとくち。
「そっか。つぶやき、見た?」
彼女は頬杖をついて、まるで私を見下すようにして尋ねた。
「…うん。」
私は俯きながら、たまにちらりと彼女の方を見ながら頷く。
「そっか。」
彼女はにやにやと笑って私の顔を見続けた。きっと赤いだろう。耳まで赤いかもしれない。恥ずかしい。
今まで何度も恋をしては破れている気がするのに、これが初恋のように思える。
それくらい、今までに無いくらい好きなように見える。
「あのー、そうだな、この後、一緒に買い物でも、する?」
自分がどうやって言葉を発したのか、今でも覚えていない。


私は、青い鳥のアプリを開いて、そこから「ミュートしたアカウント一覧」を開く。
不気味なほど静かな部屋に、ポン、ポンという選択音が響き渡る。
あったあった。
久々に、なんとなく見たくなったあのつぶやき。
私は、そのアカウントを選択してホームを開いた。
不思議なことにそのつぶやきは、まだ消されてはいないようだ。
『でーと。』
あの時の幼い手が、必死にペンを握っているのを見て私はふっと笑みをこぼす。こんな時期もあったっけ。
そして次に、胸の痛みに顔を顰める。昔はあんなに好きだったのになぁ、どうしちゃったんだっけ。もう覚えていない。
いや、好きになった理由も、その後も、全部覚えている筈なのに、なぜこうなってしまったのかは分からない。
私は暗い部屋で一人、眩しい画面に目を細めながら、懐かしい思い出に浸り始めていた。
儚げな絵の間に垣間見える今の彼女をどうにかして見ようと画面を慎重にスクロールしていった。
くれぐれもいいねは押さないように。
気づかれないように。
私がまだ、後悔してるってこと。


あの日を境に、私たちはそれまでとは比にならないほどの頻度で会うようになった。
夏休みだから、本来はそんなに会わなくてもいいし、なんなら自分一人の時間を過ごしてもいい時なのだが、そんなことをする気にはなれなかった。
それよりももっと、彼女に会いたかった。
『ねぇ、今週まだ会えてないけど、会う?』
夜、少し寂しくなって彼女に連絡した。既読はすぐについた。
『うん、会いたい。明日空いてるよ。』
即返信が来て、私もすぐに親指を動かした。
『いいね、私も明日空いてる。でももうそろそろカフェは飽きた?よね?』
私は彼女に嫌われたくなくて、いや、彼女にもっと好かれたくてそんなことを聞いてみた。
私はカフェだろうと公園だろうと、どこでもいいのだけれど。
『え、うーん、そうだね。どこ行きたいの、まゆちゃんは。』
『え、んー…』
私はその文字を消して、もう一度打ち直した。
『どこでもいいよ。』
打ち直してから、もう一度消した。
『そうだな、本屋さんとか?』
また消して、それからもう一度同じ言葉を打った。
送信した。
心が揺らいで、送信取り消しに指が伸びかけたけれどすでに既読がついていた。
『いいね、本屋。じゃあ明日は本屋行って、それからどうする?』
またすぐに帰ってきた返事に、私はどぎまぎした。どう返事をすればいいものか。どうしたらもっと、気が遣える女みたいになれる?
ついこの間まで不登校だったのに、いつの間にか健常者を通り越して、漫画に出てくる恋する乙女にでもなったような気分だ。
『そのあとはその時考えよっか。』
それが私にできる、精一杯気が利いた返事だった。

私たちの夏休みは、毎週のように二人で何をするでもなく本屋に行って、その度に好きな本を買って、行きつけのカフェで互いの買った本を読み合ったり、彼女は絵を描いて私は小説を書いたりだとか、そうやって平坦なまま結局半分が過ぎていた。
ただ、その平坦な日常の中に溢れる会話が私は大好きで、彼女もそうみたいだ。私にはそう見えた。
そして何故か恥ずかしいはずなのに、私は彼女に「友達以上、恋人未満」の意識があったのか、「友達以上」な話題を振ってしまうこともあった。
きっと、彼女がそう思ってくれているかが不安で、寂しくてやったんだと思う。
『女性とあれこれになった時、私は絶対上に行きたい。』
深夜独特のアドレナリンが変に指先を熱くして、変な方向に文字を打った。
その日も私たちは一緒にカフェに行って、慣れないくせに真似して飲んだコーヒーのカフェインがきっとまだ血管の中に残っていたのだと思う。
『(って大体そう言ってる奴が下に行くんだよねぴえん)』
あとからそう付け足して冗談感を出してみる。保険をかけているようで嫌だけれど。
そのあとすぐに既読がついて、すぐに返ってきた。
『君は上だ、多分な。』
予想外の返答だった。正直、変なテンションで送ってしまったものだからせいぜい「何言ってんの」って軽く笑い過ごしてくれたらそれで充分かな、と思っていたのに。
もしかして、彼女も同じふうに思ってくれてる?そんな妄想が頭の中を駆け巡る。同じふうに、同じようになりたいって思ってくれてる?
『いやぁそうかなぁ、私と貴方だったら絶対貴方上でしょ。』
私は続けてそう打った。願望だった。
『ちょっと待って気持ち悪いニヤニヤが止まらん』
私たちはこんなに踏み込んだ質問だって出来るくらいになってしまったんだと、そう錯覚させるのは彼女の言葉か否か。
脳が変に疼いて、私を夢の中にどっぷりと陶酔させていく。
15歳にありがちな、ピンクな夢だ。
『はぁ、ほんとすき』
勢い余って打った言葉に、私は我に帰って今まで自分が何をしてしまっていたか、どんなに重いものを押し付けてしまっていたか今更思い知って送信取消ボタンを押そうとした。
まずい、嫌われる。
そう気づいた時は既に遅し、既読が、そこにくっきりとその文字が表れてしまっていた。
どうしよう。今更取り消しようがない。焦ってスマホをソファにぶん投げた。変な感覚がした。
薄い胸の中に収まりきらないほど大きくなった心臓がドッ、ドッ、ドッと自分の耳にまで響く鼓動を鳴らしていたその時。
ピコン。
通知音が鳴って、慌てて携帯を取る。
彼女からだ。
ああ嫌だ!見るのが憚られるのに何故か少し期待している自分が卑しくて嫌い。
さらに速くなる鼓動に吐き気を催しかけて、私は震える指先で通知をそっと開いた。
『私も』
たった2文字だった。2文字だったのに、私の肺はその場で言うことを聞かなくなってしまった。
…しばらく息ができなかった。
呼吸の仕方を忘れて、ただ唖然と開いた口を片手で押さえることしかできなかった。
『貴方が最高です』
返事をする間もなく追って送られてきたメッセージ。夢の中にまだ半分溺れ切っている私に、その言葉はよく効いた。
『え、いやこんな変な奴だよ?上とか下とか言ってる』
咄嗟に返した言葉はそれだった。何を言ってるんだ。でももうこれくらいしか思い浮かばなかった。
『貴方が何言ってるかわかる私に言われてもね。』
ドン、と強く胸を突き破る感覚がした。
そうか。私たちは、同じような人たちなんだ。
思い返してみればそうだった。
私たちは同じように何か欠けたまま生まれ落ちて、同じように堕落して、同じように這いあがろうとしている人間だった。
保健室で出会ったあの日から。
あの日からずっと、私と貴方は…
『それもそうだね。』
私は胸の中にスッと落ちていった温かい気持ちを抱えたまま、自分の顔に浮かんだ微笑みを自覚してそう送った。
もう今は、いやらしい気持ちは無かった。
ただ、私たちはずっと繋がってる気がして。
彼女が私と同じような気持ちを抱いてくれている気がして、心の底から温かくなった。
これを安堵というのだろうか。
一生懸命叫んだやまびこが、返ってきたような気分。清々しかった。
そしてそれと同時に、私すら知らないうちに私の中には新たな影が生まれていた。
この気持ちを自分でも知るのは、まだもう少しだけあとのことになる。


恐れとは、いったいどれほどの後悔を生むのだろうか。
盲目とは、いったいどれほどの古傷を生むのだろうか。
あの夜も、今と同じように画面にしか目がいかなかった。
自分の中の彼女にしか目がいかなかった。
でも、自分は怖かった。自分の中にある想いを自覚したのはいいとして、これをはっきりと口に出して言ってしまうのが。
『×きです』
たったその4文字が出せなかった。
女と女、堕落したもの同士。
あの時の自分は、既にその恋が思春期特有の重ね恋故のものであると気づいていたのかもしれない。
今まで何度も恋に破れて、それが同じようなものだったことにも。
だから「愛してる」の一寸先が怖くて、私は言えなかった。
もうあんなに深くまで、後戻りの出来ないところまで行ってしまっていたのに。
恐れはきっと、後悔を生むだけ。
盲目はきっと、古傷を生むだけ。
中途半端な勇気が、黒く歴史を塗りつぶした。


「女装した。」
またいつも通り、カフェで昼前の日差しをカップ片手に二人占めしていた和やかなある日。
その時はまた唐突にやってきた。
なんの前振りもなく目の前に突きつけられたのは、萌え萌えポーズをしたキラキラな美少女の写真。
そこにはよく知ったはずの顔が一人、そして隣にはもっと小さくて人形のような顔の知らない女が一人。
胸にノイズがかかる。
「え!?これさらちゃん!?可愛い!」
なんて理想的な女子みたいな返事は、いつの間にか繕わなくなっていた。
それよりもっとありのままの私を見て欲しいと思った。が、心の中に潜んだモヤは静かに隠した。
「何、これさらちゃん?」
「そ。たまにするの。」
「へぇー、可愛いじゃん。いいね、こういうのも似合うとか意外。」
私は彼女から差し出されたスマホを受け取って、食い入るように凝視する。
「誰かと一緒に行ったの?」
誰だこいつ。そうは言えなかった。
でも心の中では何かに焦っていて、きっと早口になっていたと思う。
「えーと、部活の後輩。いっこした。可愛いよね。」
可愛い?今そう言った?私は耳を疑った。
確かに可愛い。でも、
「さらちゃんのほうがずっと可愛いよ。」
気がついた時にはもう抑えようがなくて、とっくのとうに口に出てしまっていた。
本当にそう思っていたけれど、私が言いたいのはそうでは無かった。
少しして、彼女が微笑む時に漏れた息が聞こえる。
「でも貴方の方がずっと可愛いよ。」
私ははっと、彼女の方に視線をあげた。
彼女はあの日と同じ、いやそれよりももっと悪い笑みを浮かべていた。
「嫉妬してるの?」
また頬杖をついた。瞳の中に光が蠢いた。
そうか、彼女は私のむくれた顔が欲しくて。
「別に!」
私は怒ったような素振りをして、彼女にスマホを返した。
本当は全然怒ってない。むしろ、それと180度も真逆な感情を胸の中に密かに抱いてしまっている。
「まぁでも正直、今度はまゆちゃんと行きたいな。そっちの方が楽しいだろうし。」
ほらそういうところ!ずるい。
彼女が、まるで私を独占してくれたみたいに思ったのだ。
「私だってこの間、男子とゲームしたし!幼馴染だし!」
私が頬を膨らませて、あえてちょっと声を張って言ってみると、彼女は急に笑顔を作ってあ、あ、と喉に張り付いた言葉が上手く出ない、発表会の幼稚園生みたいになった。
「あ、そう、それは、よかったですね。」
彼女は今までにないくらい焦っていた。
おたおた、という言葉が似合うだろうか。
そして私は、また自分の胸が高鳴るのを感じた。
嗚呼、好き!そう叫びたい気分だ。
これが嫉妬される悦びか。嫉妬されるとはなんていい!そう感じてしまった。
自分が縛られてるみたいで、相手に愛されてるって感じるみたいで。
「ごめんごめん、冗談だよ。私はさらちゃんだけ。」
言ってみたかった言葉が抑えきれなくて、私は向かい側の席から彼女の頭に手を伸ばして、気がつけばそれを優しく撫でていた。
私たちは交代交代に「攻め」をやってるみたいだ。
今は私がスーパーダーリンになる番。
彼女は頭を撫でられると、しゅううんと水をかけられた猫みたいに萎縮してしまって、そして上目遣いで申し訳なさそうに私の方を見上げてきた。
本当に、猫みたいに。
「本当?」
いつも強気だったのに、ここで急に弱気。ずるい。まるで私が、どういう人を好きになるか知ってるみたいでずるい。
「ほんと。」
私が漫画に出てきたイケメンを真似して(そうしたつもりで)微笑むと、彼女も安心したように微笑み返してきた。
私はそれを見た時、同時に自分の中の影を見た。
そう、ここは私たちだけの世界。
私たち以外は誰も存在してはいけない世界。
貴方のその笑顔も、萎れた顔も、ずるい言葉も、私以外には向けないで。
私だって、貴方だけにずっとそうしたいんだから。
私は尚更、この恋に溺れていった。
もっと怖くなった。私の想いを本当に口にしてしまうのが。
だって自分が思っていた以上にこの関係はなんだか正常ではないと知ったから。
この先に進むのが怖いけれど、戻ることもしたくない。ずっとこのままでいたい。
そんなわがままな気持ちが、もう時期処理できなくなっていた。

夏休みが、もうそろそろ終わりを迎えようとしている。
私は良い加減、どうしてもこの気持ちがもどかしくなって、どうにかして良い方向に持って行きたくなった。
何せ彼女は私の嫉妬する顔が楽しいのか、あれから何度も、違う人の顔を見せてきたから。
「えへ、彼氏。」
ある時はそうやって冗談まじりに笑って、彼女と男のツーショットを見せられた時もあった。
かと思えば私と一緒にペアネックレスを買いに行って、それをつけてプリクラを撮ってみたり。
胸がじくり、と痛んだ。
最初は彼女がただ私を嫉妬させたいだけだと思っていたけれど、彼女という存在は私の夢の中にいる彼女ではもう収まりきらない気がしてきていた。
SNSを見ても、彼女は私よりずっと多くの友達を持っていた。
現実(リアル)では誰にも話しかけてもらえなかった彼女が、ある朝タイムラインを開けば何十個もの「おはよう」をもらっている光景は何度見ても私の心を抉った。
『今の待ち受けは何?』
ある時、彼女のSNSにこんな質問が来ていた。匿名の質問箱だ。
『すきなひと。』
彼女の返事はこれだけ。私は誰だ、誰だと疑り深くなって、でも彼女には聞けそうにもなかった。
ただ私なら良いな、と願うばかりで。
でも他の人だったらどうしよう、どうしてしまうだろうと怒りの種が灯って。
だってペアネックレスを持ってるのは私なのに。
でも、そんな彼女はLINEで何度も寂しそうにこう繰り返すこともあった。
『愛してる』
『愛してるよまゆちゃん』
『だからずっと一緒にいてね』
『一緒にいたいの』
やがて通話に発展して、猫の鳴くような甘えた彼女の声を聞いて、眠りについて、朝起きたら彼女はもう私のものじゃなくなっている。
私の前では、見せない顔を持っている。
私は私の知らない彼女がどんどん怖くなっていった。
そして、私は自分のこともどんどん怖くなっていった。
私はこんな心を抱えていながら、ここ最近、別の人—幼馴染の男子と久々に通話を繋いでゲームを楽しんでいた。
そして自分の中に、やましい気持ちがあるのを理解していながら、それを続けていたのだ。
「ねぇ、まゆってさぁ、好きな人いんの。」
ある日彼がこう聞いてきて、私は思わず「は!?」と大声をマイクに吹き込んでしまった。
あまりにタイムリーすぎる。
「うっさ!なに、いんの?いんだろぉ。」
彼はカメラがなくてもわかるニヤつきようで茶化す。
どう答えたら良いかわからない。
私の好きな人は、いったい誰?
こっちの方がずっと健全だ。でも私は確かに彼女を、独り占めしたい気持ちがある。
「さぁね。」
私はそう返すのがやっとだった。

夏休み終了1週間前。
そんな私の焦燥感を察したように、彼女からはこんな誘いが来た。
『ねぇ、明日仮面ライダーのショーが遊園地であってさ、ここに2枚チケットがあるんだけど来る?』
漫画のような誘い方。私は心が躍るのを確かに感じた。
筈なのに、心のどこかでは「誰かと行く筈だった2枚」が浮かんでしまって、そんな自分がまた嫌いになった。
もう、言おう。言ってしまおう。
ときめきに高鳴った鼓動は、いつの間にか胃の中に溜まり煮えきった反吐と化したようだ。
私はそうして、最終決戦に向かうべく、意を決して送信ボタンを押した。
『え、行きたーい!』