今日の1年生の練習メニューは校舎周りをひたすら走る体力作りみたいだ。これが1ヶ月も毎日続くと聞かされた時は本気で辞めたくなったが入部した限り頑張らないとと思い耐えた。正直やっていける気がしない。
昨日名前を呼ばれた2人の1年生は早速先輩たちと一緒に"ラケットを使った"練習に参加していた。1年生は全員で16人。
2人はコート、残りはランニング。走りながら文句が飛び交う。それも部長に対してではなく1年生の2人に。
完全に妬みである。2人は選ばれただけなのに1年生全員から嫌われる。人間は優れている人を妬み羨むが、そんなことをしていてもいつまで経っても人から羨まれることは絶対にない。頭ではただの妬みだと分かっていてもこの時の空人は朝からのストレスを発散するみたいで心地良かった。最低だが...
2時間のランニングで休憩を挟みながら走り続けようやく部活が終了した。これを毎日。しかも1ヶ月も...地獄だ。
部長は人ではなく鬼なのだろう。他の部活もちょうど終わったのか、駐輪場には多くの生徒で溢れかえっている。
"トントン"隣から肩を優しく叩かれる。
「一緒に帰ろっ」
怜奈。久しぶりに話す気がして一気に疲れが消えていく。ここで嬉しそうにしたらまた周りがうるさくなると思い小さく頷く。
友達に少し揶揄われたが無視した。
「空人、ごめんね。私が友達に話したせいで今日大変だったでしょ」
「大変だったけど、こうして一緒に帰れてるから平気よ!」
2人並んで坂を下り、夜風が体をすり抜けていく。とても気持ちがいい。怜奈の黒い長い髪が風に靡いていて美しくて見惚れる。
「・・・と、空人!聞いてる?」
「ごめんごめん」
「何ぼーっとしてるんだか」
"見惚れていた"なんて口が裂けても言えない。それにしても今が幸せすぎて、この後不吉なことが起きないか不安。
「あのさ、今日は家まで送って欲しいなーなんて・・・」
照れくさそうにしている様子がまた可愛い。
「もちろん家まで送るよ」
いつも別れる道から10分ほどで怜奈の家に着いた。見た感じ普通の一軒家のようだ。
ここに来て少しずつ心拍数が上がっているのが息を吸うだけで感じられる。
「ねえ、空人。家に上がっていく?」
さっきよりも心臓の音が速く大きく聞こえてくる。
「え、え?家に?ご両親は?」
「もちろんいるよ。夕食でも一緒にどうかなーって」
突然の誘いに頭が回らなくなる。まだ付き合ったばかりなのにいきなり彼女の両親と夕食なんて緊張でおかしくなりそうだ。
「嬉しいけど、その・・・心の準備ってものが・・・」
「だ、だよね!ごめんね。急に誘っても困るよね。また今度にしよっか」
心なしか少し落ち込んでいるような彼女。
「私ね、今まで彼氏がいたことがなかったからどうしたらいいか分からなくて、お母さんに相談したら『今度ご飯にでも誘ってみたら?』って言われたから誘ったの」
「え?怜奈のお母さんが言いたいのは、たぶん『2人でご飯に行ってみたら』ってことじゃないの?」
彼女は少し天然なのかもしれない。
「あ、そっちか!」
ようやく気付いたようで楽しそうに笑う彼女。その隣で安心している自分がいる。
「でも、連れてきてもいいよって言ってた気も・・・ま、いっか!」
聞き取れなかったが解決したみたいだ。
「それじゃ、家族が待ってるからそろそろ帰るよ」
少し前に母からLINEが来ていた。
「うん!送ってくれてありがとね!またね」
彼女が家に入るまで見送ってから自転車にまたがる。もう2度とここに来ることはないとは知らずに。
あの時怜奈の両親と出会っていたら少しは違った1年になっていたのだろうか。今さら何を思っても現実は変わらないのに。
昨日名前を呼ばれた2人の1年生は早速先輩たちと一緒に"ラケットを使った"練習に参加していた。1年生は全員で16人。
2人はコート、残りはランニング。走りながら文句が飛び交う。それも部長に対してではなく1年生の2人に。
完全に妬みである。2人は選ばれただけなのに1年生全員から嫌われる。人間は優れている人を妬み羨むが、そんなことをしていてもいつまで経っても人から羨まれることは絶対にない。頭ではただの妬みだと分かっていてもこの時の空人は朝からのストレスを発散するみたいで心地良かった。最低だが...
2時間のランニングで休憩を挟みながら走り続けようやく部活が終了した。これを毎日。しかも1ヶ月も...地獄だ。
部長は人ではなく鬼なのだろう。他の部活もちょうど終わったのか、駐輪場には多くの生徒で溢れかえっている。
"トントン"隣から肩を優しく叩かれる。
「一緒に帰ろっ」
怜奈。久しぶりに話す気がして一気に疲れが消えていく。ここで嬉しそうにしたらまた周りがうるさくなると思い小さく頷く。
友達に少し揶揄われたが無視した。
「空人、ごめんね。私が友達に話したせいで今日大変だったでしょ」
「大変だったけど、こうして一緒に帰れてるから平気よ!」
2人並んで坂を下り、夜風が体をすり抜けていく。とても気持ちがいい。怜奈の黒い長い髪が風に靡いていて美しくて見惚れる。
「・・・と、空人!聞いてる?」
「ごめんごめん」
「何ぼーっとしてるんだか」
"見惚れていた"なんて口が裂けても言えない。それにしても今が幸せすぎて、この後不吉なことが起きないか不安。
「あのさ、今日は家まで送って欲しいなーなんて・・・」
照れくさそうにしている様子がまた可愛い。
「もちろん家まで送るよ」
いつも別れる道から10分ほどで怜奈の家に着いた。見た感じ普通の一軒家のようだ。
ここに来て少しずつ心拍数が上がっているのが息を吸うだけで感じられる。
「ねえ、空人。家に上がっていく?」
さっきよりも心臓の音が速く大きく聞こえてくる。
「え、え?家に?ご両親は?」
「もちろんいるよ。夕食でも一緒にどうかなーって」
突然の誘いに頭が回らなくなる。まだ付き合ったばかりなのにいきなり彼女の両親と夕食なんて緊張でおかしくなりそうだ。
「嬉しいけど、その・・・心の準備ってものが・・・」
「だ、だよね!ごめんね。急に誘っても困るよね。また今度にしよっか」
心なしか少し落ち込んでいるような彼女。
「私ね、今まで彼氏がいたことがなかったからどうしたらいいか分からなくて、お母さんに相談したら『今度ご飯にでも誘ってみたら?』って言われたから誘ったの」
「え?怜奈のお母さんが言いたいのは、たぶん『2人でご飯に行ってみたら』ってことじゃないの?」
彼女は少し天然なのかもしれない。
「あ、そっちか!」
ようやく気付いたようで楽しそうに笑う彼女。その隣で安心している自分がいる。
「でも、連れてきてもいいよって言ってた気も・・・ま、いっか!」
聞き取れなかったが解決したみたいだ。
「それじゃ、家族が待ってるからそろそろ帰るよ」
少し前に母からLINEが来ていた。
「うん!送ってくれてありがとね!またね」
彼女が家に入るまで見送ってから自転車にまたがる。もう2度とここに来ることはないとは知らずに。
あの時怜奈の両親と出会っていたら少しは違った1年になっていたのだろうか。今さら何を思っても現実は変わらないのに。