数日が嵐のように過ぎ、今日は待ちに待った部活動本入部の日。事前に持ち物については説明を受けていたので準備はバッチリ。
緊張しながらもテニスコートに足を踏み入れる。改めて先輩たちを近くで見ると、この前まで中学生だった自分と比べると全然体格が違うのが一目でわかる。これが高校生か…
「えー、部長の宇佐美です。1年生のみんな入部してくれてありがとう。自己紹介と言いたいところだけど、まずは上級生たちと試合をしてもらう。この試合で上手いと思った1年生は早速明日から自分たちと同じ練習。それ以外の1年生は明日からは体力作りとして走ってもらう」
まさかいきなり試合をするなんて思ってもいなかった。それに1年生でも明日から練習が違うなんて鬼畜すぎるだろ。でも、見学して分かったがそこまでレベルは高くはない。
普段通りプレーしたらきっと大丈夫だ。"これでも市では名が知られていたからな!"
「それでは各コート試合開始」
部長の声が雲一つない透き通った空に響く。
結果は散々だった。何もできないまま終わりストレート負けしていた。自分のミスも多かったが、驚いたのは球の重さ。見ているだけでは感じ取ることができなかった凄さがここでようやく理解できた。
正直余裕だと思っていた自分が馬鹿らしい。全ての試合が終わる頃には、夕陽もすっかり落ち外は暗くなっていた。
「みんなお疲れ様.全ての試合を見させてもらったけど、見込みのある1年生は2人だけ。名前は・・・以上。それではまた明日からよろしくね」
当然名前を呼ばれることはなかった。悔しさで手のひらに爪が食い込む。帰る支度をしていると何やら周りが騒がしい。どうやらみんな隣の女子コートを見ているようだ。
物凄い打球音が聞こえてくる。
「なんだあの子、めちゃくちゃ上手いぞ。それに可愛いぞ」
次々とみんなが口を揃えて同じことを話し出す。
視線の先にいたのはやはり早川さん。流石に東北大会レベルまでなると見ているだけでも全然違うのがはっきり分かる。
一瞬こちらを見ていたような気がした。
その後、女子もすぐに練習を終え解散となっていた。
制服に着替え1人駐輪場へ向かう。後ろから走ってくる音がする…
「空人くん、一緒に帰らない?」
この声は…間違いない。
「もちろん!帰ろ」
少し周りが騒ついた気がしたが気にしない。たぶん明日色々な人に問い詰められるだろうな。
「一緒に帰るのはあの日以来だね。LINEは毎日やり取りしてるけど、やっぱり2人で帰るのは緊張するね」
「俺も緊張するけど一緒に帰れるなら問題なし!」
「もしかして嬉しいの〜?」
これは絶対にバカにしてる顔だ。
「そ、そりゃ嬉しいよ」
つい本音で答えてしまい少し恥ずかしい。
「え、う・・・嬉しいの?」
なぜか言葉が詰まる彼女。でも顔は真剣で目を離すことができない。
「空人くんはさ、今好きな人っているの?」
突然の質問にペダルを漕ぐ足が止まる。
「え、どうしたの急に」
「いや、いるのかなーって」
なんだこの青春っぽい会話は。
「早川さんこそいるの?」
この返答を使うのはずるいが、今はこうするしか理性が保てない。
「あーもう、いいや。私はね、空人くんのことが好きです。もしよかったら付き合ってほしいです!」
まさか告白されるとは思っていなかった。ただの仲のいい男友達という認識だと勝手に思い込んでいた。
「ちなみになんで俺なの?いっぱいかっこいい人いるのに」
「・・・一目惚れだったの。この学校の入試の時、空人くんの隣の席で受験してたんだけど当日消しゴム忘れちゃって慌ててたら横から机の上に消しゴムを置いてくれて」
そんなこともあった気がするけど、隣だったなんて。すごい偶然。
「その貸してくれた時の顔が優しくて、それで入学したら同じクラスだったし・・・」
「自己紹介の時こっちをガン見してたのももしかして・・・」
「え、バレてたの!恥ずかしすぎる。あの時は会えた嬉しさでほぼ無意識で見てたと思う」
嬉しすぎて顔がニヤけてないか心配。今までも何度か告白はされてきたがどれも付き合ってみたいと思う人はいなかった。
ほぼ全てが興味本位の付き合いだった。正直、早川さんのことが好きかと聞かれたら好きとは確信して言えないだろう。でも、気になってはいる。これが恋なのかはわからない。
「そ、それで返事の方は・・・」
早川さんが控えめに照れながら聞いてくる。
「あ、ごめん。俺も気になってたんだ。こちらこそよろしくお願いします」
緊張していた様子だった彼女の顔に少しずつ笑みが戻っている。
「はあー。振られるかと思ったから怖かったよ。初めて告白したかも」
「早川さんの彼氏になるのか。こりゃみんなに色々聞かれるだろうな・・・」
「そうなの?それよりも空人くんも私のこと"怜奈"って呼んでよ!」
「え、マジで?」
「そりゃそうでしょ。今日から彼女なんだから!ほら、呼んで!」
「れ、怜奈」
「よくできました!これからよろしくね」
…お互いに照れてしまい無言が続く。
気付くといつも2人が別れる場所まで来ていた。
「せっかくだから今日は家まで送ろうか?」
「ううん。今日は大丈夫!1人で帰るよ」
「そっか。気をつけてね」
「ありがとう。帰ったらLINEするね」
「おっけー。また明日!」
今日は付き合った優越に浸りたかったので、ペダルをゆっくりと漕ぎ始める。
"まだ高校生になったばかりなのに彼女できちゃったよ!"と心の中で叫んでいると
「空人!大好きだよ!」
振り返ると顔を赤く染め照れくさそうに笑う彼女。
「また明日学校でね」
そう言い残し彼女は帰って行った。
心臓の音が大きくなるばかりでなかなか鳴り止まない。ずるいよ...今まで"くん"付けだったのに...
辺り一面が闇に包まれていく。そんな闇に飲み込まれそうな自分を月が照らす。
今日は満月らしい。
「月が綺麗だな」
と1人で呟きながら再びペダルを漕ぎ始める。
緊張しながらもテニスコートに足を踏み入れる。改めて先輩たちを近くで見ると、この前まで中学生だった自分と比べると全然体格が違うのが一目でわかる。これが高校生か…
「えー、部長の宇佐美です。1年生のみんな入部してくれてありがとう。自己紹介と言いたいところだけど、まずは上級生たちと試合をしてもらう。この試合で上手いと思った1年生は早速明日から自分たちと同じ練習。それ以外の1年生は明日からは体力作りとして走ってもらう」
まさかいきなり試合をするなんて思ってもいなかった。それに1年生でも明日から練習が違うなんて鬼畜すぎるだろ。でも、見学して分かったがそこまでレベルは高くはない。
普段通りプレーしたらきっと大丈夫だ。"これでも市では名が知られていたからな!"
「それでは各コート試合開始」
部長の声が雲一つない透き通った空に響く。
結果は散々だった。何もできないまま終わりストレート負けしていた。自分のミスも多かったが、驚いたのは球の重さ。見ているだけでは感じ取ることができなかった凄さがここでようやく理解できた。
正直余裕だと思っていた自分が馬鹿らしい。全ての試合が終わる頃には、夕陽もすっかり落ち外は暗くなっていた。
「みんなお疲れ様.全ての試合を見させてもらったけど、見込みのある1年生は2人だけ。名前は・・・以上。それではまた明日からよろしくね」
当然名前を呼ばれることはなかった。悔しさで手のひらに爪が食い込む。帰る支度をしていると何やら周りが騒がしい。どうやらみんな隣の女子コートを見ているようだ。
物凄い打球音が聞こえてくる。
「なんだあの子、めちゃくちゃ上手いぞ。それに可愛いぞ」
次々とみんなが口を揃えて同じことを話し出す。
視線の先にいたのはやはり早川さん。流石に東北大会レベルまでなると見ているだけでも全然違うのがはっきり分かる。
一瞬こちらを見ていたような気がした。
その後、女子もすぐに練習を終え解散となっていた。
制服に着替え1人駐輪場へ向かう。後ろから走ってくる音がする…
「空人くん、一緒に帰らない?」
この声は…間違いない。
「もちろん!帰ろ」
少し周りが騒ついた気がしたが気にしない。たぶん明日色々な人に問い詰められるだろうな。
「一緒に帰るのはあの日以来だね。LINEは毎日やり取りしてるけど、やっぱり2人で帰るのは緊張するね」
「俺も緊張するけど一緒に帰れるなら問題なし!」
「もしかして嬉しいの〜?」
これは絶対にバカにしてる顔だ。
「そ、そりゃ嬉しいよ」
つい本音で答えてしまい少し恥ずかしい。
「え、う・・・嬉しいの?」
なぜか言葉が詰まる彼女。でも顔は真剣で目を離すことができない。
「空人くんはさ、今好きな人っているの?」
突然の質問にペダルを漕ぐ足が止まる。
「え、どうしたの急に」
「いや、いるのかなーって」
なんだこの青春っぽい会話は。
「早川さんこそいるの?」
この返答を使うのはずるいが、今はこうするしか理性が保てない。
「あーもう、いいや。私はね、空人くんのことが好きです。もしよかったら付き合ってほしいです!」
まさか告白されるとは思っていなかった。ただの仲のいい男友達という認識だと勝手に思い込んでいた。
「ちなみになんで俺なの?いっぱいかっこいい人いるのに」
「・・・一目惚れだったの。この学校の入試の時、空人くんの隣の席で受験してたんだけど当日消しゴム忘れちゃって慌ててたら横から机の上に消しゴムを置いてくれて」
そんなこともあった気がするけど、隣だったなんて。すごい偶然。
「その貸してくれた時の顔が優しくて、それで入学したら同じクラスだったし・・・」
「自己紹介の時こっちをガン見してたのももしかして・・・」
「え、バレてたの!恥ずかしすぎる。あの時は会えた嬉しさでほぼ無意識で見てたと思う」
嬉しすぎて顔がニヤけてないか心配。今までも何度か告白はされてきたがどれも付き合ってみたいと思う人はいなかった。
ほぼ全てが興味本位の付き合いだった。正直、早川さんのことが好きかと聞かれたら好きとは確信して言えないだろう。でも、気になってはいる。これが恋なのかはわからない。
「そ、それで返事の方は・・・」
早川さんが控えめに照れながら聞いてくる。
「あ、ごめん。俺も気になってたんだ。こちらこそよろしくお願いします」
緊張していた様子だった彼女の顔に少しずつ笑みが戻っている。
「はあー。振られるかと思ったから怖かったよ。初めて告白したかも」
「早川さんの彼氏になるのか。こりゃみんなに色々聞かれるだろうな・・・」
「そうなの?それよりも空人くんも私のこと"怜奈"って呼んでよ!」
「え、マジで?」
「そりゃそうでしょ。今日から彼女なんだから!ほら、呼んで!」
「れ、怜奈」
「よくできました!これからよろしくね」
…お互いに照れてしまい無言が続く。
気付くといつも2人が別れる場所まで来ていた。
「せっかくだから今日は家まで送ろうか?」
「ううん。今日は大丈夫!1人で帰るよ」
「そっか。気をつけてね」
「ありがとう。帰ったらLINEするね」
「おっけー。また明日!」
今日は付き合った優越に浸りたかったので、ペダルをゆっくりと漕ぎ始める。
"まだ高校生になったばかりなのに彼女できちゃったよ!"と心の中で叫んでいると
「空人!大好きだよ!」
振り返ると顔を赤く染め照れくさそうに笑う彼女。
「また明日学校でね」
そう言い残し彼女は帰って行った。
心臓の音が大きくなるばかりでなかなか鳴り止まない。ずるいよ...今まで"くん"付けだったのに...
辺り一面が闇に包まれていく。そんな闇に飲み込まれそうな自分を月が照らす。
今日は満月らしい。
「月が綺麗だな」
と1人で呟きながら再びペダルを漕ぎ始める。