1年生たちはまだ部活動体験期間中。気になる部活があればどこでも見に行っても自由。運が良ければ参加できる部活もあるみたいだ。
それでも空人はすでにテニス部に入ると決めているので正直見学に行かなくてもいいのだが、特にすることもないのでほぼ毎日見学に行っている。
理由はもう1つあるけど…
いつの間にか彼女を目で追うようになっていた。
"これは恋なのか"自分でもわからない。
中学生の時も彼女はいたことがあった。好きというより自然と付き合って気付けば別れていた。
覚えているのは放課後手を繋いで帰ったくらい。中学生らしい恋愛だった。果たして付き合っていたと言えるのだろうか。

部活の見学終了時間になる。いつもは中学から同じの友達と帰っているが、今日は放課後予定があるらしく先に帰ってしまっていたので初の1人下校。
自転車通学なので駐輪場に行くと、早川さんが友達と話しているのを見かける。
「怜奈、ごめん。今日私、彼氏と帰るから一緒に帰れないや。ほんとごめん!」
「いいよ。たまには1人で帰るのも悪くないからさ」
「ありがとう!じゃ、また明日ね」
どうやら早川さんも今日は1人らしい。盗み聞きしてたみたいでなんだか申し訳なくなる。
"でもこれって2人で話すチャンスなんじゃないか?"
どんな子か知りたい。きっと今の気持ちはこれだ。
勇気を振り絞り早川さんに近づいていく。すぐに彼女もこちらに気付き目が合う。

「早川さん、俺も今日友達先に帰ったから1人なんだ。良かったら途中まで一緒に帰らない?」
2人の間に沈黙が流れる。やけに心臓の音がクリアに聞こえてくる。
「え、うん。いいよ」
なぜか彼女は目を合わせず下を向いている。もしかしてそんなに嫌だったのだろうかと思い少し落ち込む。そんなことばかり考えていると耳元で『一緒に帰ろう』と囁かれたので考えるのはやめた。
"今のは心臓に悪いよ"心臓の鼓動がいつまでも鳴り止まなかった。

一緒に帰れてはいるもののすでに5分ほど互いに無言。このままではつまらない男と思われてしまうけれど、何を話したらいいのかわからない。
誘ったのは自分なのにも関わらず。
「桜さ、散ってきちゃったね」
「え、桜?」
先に沈黙を破ったのは彼女だった。
「空人くんはさ、桜見るとどんな気持ちになる?」
「んー、今年も綺麗に咲いたなって感じかな」
「そうだよね。桜って綺麗だもんね.でもさ少し儚いよね」
「儚い?どうして?」
「どうしてだろう。桜見るとどうしても自分の『人生』と掛け合わせちゃうんだよね」

今の空人には彼女の言っていることが全くわからなかった。ただ毎年、綺麗だなと感じるだけだった自分と『人生』と掛け合わせて桜を見ている彼女。
「桜はさ、満開になってもすぐに散ってしまう。だから桜見てると私もやりたいことはできるうちに頑張らないとって考えてしまうんだよね」
「そうなんだ・・・」
自分にはない大人のような考えにこれ以上言葉が出てこない。
「ごめんね。ほぼ初対面なのにこんなしんみりした話して」
「いや、正直驚いた。同い年でここまで大人びた考えの人に会ったのは初めてだったからさ」

自転車で風を切っている自分たちと同じように桜の花びらが風に流され宙を舞う。
"確かに綺麗だけど儚いかもな"不思議とそんな気持ちになってしまう。
「私こっちだから、今日はありがとね」
「こちらこそありがとう、楽しかったよ。あ、LINEでも交換しない?」
「え、いいの!嬉しい」
「嬉しいんだ・・・」
ぼそっと口から溢れてしまう。
「え、いや、そのとりあえず交換!」
交換するとLINEの友達欄に『怜奈』という文字が追加される。彼女の方を見ると、携帯で顔は隠れているものの笑っている気がする。

1分ほど携帯を見たまま動かない彼女。何をそんなに見ているのだろうか。
「そろそろ帰らない?」
彼女の体が一瞬ビクッと動く。
「ごめん。ついついLINE眺めちゃった。それじゃ、後で連絡するね」
「おう、また明日学校で!」
長い髪を靡かせ彼女は帰って行った。なぜかその後ろ姿から目が離せず、彼女が見えなくなるまで眺めていた。
通りかかった人たちの視線を感じたので自転車のペダルを強く踏み、急いで家に向かう。