入学式から1週間が経ち少しずつ高校にも慣れ始め、優以外にも話す友達が増えた。
高校はとても自由度が高い。髪を染めたりとかは流石に禁止だが、噂によると県内トップの高校は生徒がきちんと勉学に励むのなら、ある程度のことは自由らしい。
正直羨ましいが自分にはその高校に入学するための学力が備わっていなかった。
例え、中学時代毎日10時間勉強していても合格はできなかったのではないかと今更ながら思う。
それでも今の環境には十分満足している。

中学校にはない売店や自販機、そして携帯を使っても良いというのは中学では考えられない。
他にも中学の頃には当然のようにしていた細かいルールも全くない。
"高校はこんなに楽しいところなのか"と1人の世界に入り込んでいると、後ろから肩を叩かれる。
「空人。何1人でニヤけてんの?気持ち悪いぞ」
その声で我に返り、後ろを見ると優が顔を引き攣らせて変なものを見るかのような目でこちらを見ていた。
教室にいることをすっかり忘れていた。
「ごめん、少し考え事してた」
「尚更気持ち悪いわ」
入学早々完全にやらかしてしまった…
「ま、程々にな。それよりホームルーム終わったから掃除行くぞ」
「え、もう今日終わり?」
「はぁー?大丈夫か。今日は授業も帰りの挨拶も終わったぞ。どんだけ妄想してたんだよ」
「妄想なんてしてねぇーから!」
大声を出してしまったことでみんなに見られてしまう。恥ずかしすぎる。

思い耽っている間に1日が終わってしまうとは。
高校生にもなってまで掃除があることに最初は嫌気が差したが、中学ほど丁寧にする必要はないらしいので苦ではない。
そんなことより、同じ掃除グループの中に自己紹介の時見つめてきた早川さんがいるのが気になりすぎて毎回集中できない。
彼女も自己紹介の時に話していたように、やはりテニス部に入部するらしい。
テニス部の練習するコートは男女で隣同士だが、練習内容も全く違い仲が良いわけでもなさそうなのでそれぞれ別の部活ってイメージ。

彼女から話しかけてくる様子はなさそうなので、自分から話しかけたいがなかなか機会が訪れない。
次の日も"今日こそは話しかけるぞ"と朝家で気合を入れたが結局放課後。
掃除が終わりがっくりしたまま教室に荷物を取りに戻る。
「空人、また明日な!部活見学行ってくるわ!」
優は元気よく教室を飛び出していく。彼は野球部ではなくハンドボール部に入部するつもりらしい。楽しそうなのでなにより。

優がいなくなった教室に入ると、そこには1人の女の子が。それが誰なのかはすぐにわかった。
早川さんだ…彼女はまだ空人の存在に気づいてないみたい。
「あ、あの!早川さん!」
「うわっ!びっくりした。もっと普通に話しかけてよ」
後ろから急に声をかけたことで彼女を驚かせてしまった。
「あ、ごめんなさい。ずっと話しかけるタイミング探してたから…」
「そうなんだ…って空人くん!?」
「え、俺のこと知ってるの?」
「も、もちろん知ってるよ!だ、だって…」
顔が少し赤く染まって見える気もするが、きっと日の当たり加減だろう。
「やっぱりなんでもない!」
彼女はそう言い残し足早に教室を出て行ってしまった。"もしかして、嫌われてる?"
廊下から同級生たちの賑やかな声が聞こえるが、空人には何一つ聞こえずただ早川さんの席を眺めていることしかできなかった。