あれから約1年が過ぎ、同級生はみんな2年生に進級した。別れた当初は何も手付かずだったが、次第に他のことで気を紛らわそうと勉強と部活に力を入れた結果、勉強では元々頭は良くなかったのにも関わらず学年全体で一桁まで成績が向上した。もちろん宮はずっと1位なのも変わらないが。
部活は3年生の先輩が6月に引退した後からメキメキと上達して今では2年生でエースという立ち位置にいる。最近の大会では県ベスト16と、あと少しで全国大会に出場できるところで負けてしまった。負けた時はめちゃくちゃ悔しかったがいい経験になったと今は思う。自分の実力を過信せずに今も必死に練習に取り組めているので。
彼女...怜奈もあれから部活に力を入れたらしくずっと彼氏がいないと噂で聞いた。入学した頃から実力は県トップクラス。それが1年生の頃の県大会でベスト8という記録を残した。県でベスト8は、全国大会への切符を手にできる順位。
今までこの高校のテニス部から全国大会に行った人はいなかったので、もうお祭り騒ぎだった。
全国大会は残念ながら1回戦敗退だった。それでも1年生で大舞台に出られたのはこれからの部活のモチベーションに繋がるに違いない。

「おーい、空人今日部活休みだろ?どこか寄って帰ろうぜ!」
「いいけど、優も部活ないの?」
「今日はオフだからな」
眩しすぎるくらいの笑顔で話しかけてくる優。優とは2年生になっても同じクラスで席も前後だった。奇跡すぎる...
"優がいたから俺は真っ直ぐに進んでこれた。この先もずっと親友でいてくれよ"優の背中に語りかけるが、その声は優には聞こえていない。だから代わりに...
「優、いつもありがとな!」
優が振り返って大きく目を開く。
「何がだよ。俺は何もしてねぇよ。それよりその気持ち悪い笑顔どうにかしろ!」
すぐに前を向いて教室を出ていく優。嬉しそうな顔をしていたのはここだけの秘密。
いつの間にか1人教室に取り残されていた。帰ろうと準備していると、教室の窓から桜が風に揺れているのが見えた。
1年前に彼女が話していたことを思い返す。確かに桜が儚いと言っていた彼女の気持ちが少しだけ分かる。
満開になってもすぐに散ってしまうのは自分の恋にそっくりだったと。
今は分かるよ...桜を見ると健気だけど頑張って咲いている姿が。
「やりたいことはできるうちにか・・・」
1人静まり返った教室で呟く。"ガラガラ"教室の扉がゆっくりと開く。
「空人・・・」
1年ぶりに自分の名前を呼ぶ声。ずっと呼んで欲しかった人。彼女もまた同じクラスだった。
さっき呟いた言葉を思い出す。自分から言うのはかっこ悪いけど『やりたいことはできるうちに』だからな。

「あのさ、怜奈・・・」