俺の妹は、可愛い。
最高に、最強に。
世界で誰よりも美人だし、頭も良い。
スポーツも万能。
年子で生まれた兄の俺と同じ高校に通っている。
性格も良いし、男女関係なく、誰からも愛されている、自慢の妹だ。
勉強で言えば常に校内でトップをキープ。
所属しているテニス部にて、全国大会で優勝をおさめ、また世界記録を塗り替えた持ち主。
またプライベートでは、芸能活動。
日本で今、一番売れに売れているアイドルとして、世の男たちを虜にしている。
死んだ父親似の俺とは全然違う。
兄である俺といえば、妹と比べて、全てが凡人。
唯一、得意な事は料理や家事ぐらいか。
幼い頃、両親を失って以来、兄妹二人でどうにか暮らしてきた。
家計を支えてくれるのは、3歳から芸能活動を精力的に頑張ってくれた妹だ。
子役として、CMなどでちょこちょこ仕事をこなし、気がつけば、今ではこの日本におけるアイドルのトップに君臨する。
これも全て俺たちの生活のためだ。
どうしようもない兄の俺を支えてくれるため、妹は日夜、学業と仕事に励んでいる。
その名は……。
「おい、聞いているのか? 兄?」
教室から窓の外を眺めていると、クラスメイトが話しかけてきた。
「ん? なんのことだ?」
「兄~ そりゃないぜ~ お前さ、妹香ちゃんの兄貴だろ~ サイン入りの写真とかくれよ~」
「あぁ……またその話か。悪いが友人だからと優遇するわけにはいかん。公式のファンクラブで抽選会とかやっているはずだ。そこでゲットしてくれ」
俺の周りには、こういう輩がよく訊ねてくる。
大半はアイドルである妹狙いだ。
断じて、俺が阻止する。
妹香は血さえ繋がっていなければ、俺が結婚したいぐらい可愛いんだ。
実の兄である俺でさえ、その魅力に毎日やられそうだと言うのに。
俺たちの暮らしを脅かすような存在は排除する。
それが兄妹の掟でもある。
「おにーさまぁ!」
噂をすれば、妹香の登場だ。
艶やかな長い黒髪を揺らせて、俺の元まで走ってくる。
制服のスカートがヒラヒラと左右に踊る。
丈が短いせいで、僅かに下着がチラチラと目につく。
今日はピンクのレースか。
俺が兄じゃなければ、告白したいぐらいだ。
「妹香。仕事上がりか?」
「うん! ドラマのロケが終わったから、少しでも早くお兄様にお会いしたくて……」
なんて上目づかいで、頬を赤くする。
よく見れば、額に汗が滲んでいた。
そんなに俺に会いたかったのか。
愛らしい。
「ああ、俺も会いたかったよ、妹香」
ズボンのポケットからハンカチを取り出し、妹香の顔を優しく拭いてあげる。
「お兄様。妹香は幸せでございますわ……」
慎ましいが、俺への愛はブレることがない。
「ふふ。じゃあ、今晩はお前の好きな料理を作って待っているよ。まだ仕事が残っているんだろ?」
「はい……寂しいです。でも、お兄様の料理があるなら、妹香、お仕事も頑張れます!」
なんて健気に両手で拳を作ってみせる。
俺は妹香の頭を優しく撫でてやった。
先ほどのクラスメイトが、俺たちのやり取りを見ていて、ぼやく。
「いいなぁ~ あのトップアイドルの妹香ちゃんと二人暮らしかぁ……きっと女の子らしい可愛い部屋なんだろなぁ。甘い香りがふわ~ってしてさぁ。一度でいいから遊びにいきたいぜ」
俺はそれを聞いて、咄嗟に叫び声をあげる。
「おい! それだけはダメだ!」
彼の『香り』という言葉に動揺したからだ。
「な、なんだよ。急に……兄」
「ダメと言ったら、絶対にダメだ! いくら友達でも我が家には一歩も踏み入れることは許さん! 妹香は俺が守る!」
興奮しているせいか、ずいっと彼に顔を近づけて、睨みをきかせる。
「わ、わかったよ。アイドルだもんな、ハハハ」
「そうだ。妹香は特別なんだ……俺にとってな……」