「華取咲桜。咲桜、こっちが天科恋(あましな れん)さん。旧姓は猫柳恋(ねこやなぎ れん)」
「はじめまして! えと、天科さん? 猫柳さん? どちらでお呼びすれば――」
颯爽とカウンターを出て来た恋さんは、優美な動作で咲桜の右手を取った。
「わずらわせてすまない、お嬢さん。恋と呼んでくれ。ああ、もう流夜のものだというのが悔しいくらいだ。流夜より先に貴女に逢っていたかった」
「………」
三秒ほど遅れて、咲桜が顔を真赤にさせた。あー、気ぃ浮つかせた。それを確認して、堂々とネタばらしを決行する。
「咲桜。浮気しないんじゃなかったっけ?」
「え⁉ 浮気なんてしてないよ⁉ あれ⁉ 流夜くん以外の人に照れるわけないのに!」
かなり慌てている。その理由は俺の推測通りだろうか。
「お前は女好きだからな。やっぱりかっつーくらいだが。恋さん、あんたいい加減女口説くのやめろよ。天科サンは蒼に文句つけてるし、閃だってもう中三だろ?」
恋さんはさっと俺の方へ顔を向けた。
「私のこれは需要があるからやめるわけにはいかないんだよ」
「レンのは大分趣味入ってるけどねー」
「ケンうるさい」
その説明だけでは咲桜は、完全理解はしなかった。……トドメがいるか。
「咲桜、その人は天科全の嫁。恋さんは女」
「………」
咲桜は何度も瞬く。恋さんはにっこり笑う。
恋さんは、まあこの見た目の上に、なんか知らんがいつも男役になりきってるからな。